テニスの八百長事件はなぜ起きた?その背景と再発防止にやるべきことは
なお2013年シーズンのデータによると、世界のプロテニス選手(ATPもしくはWTAポイントを持っている選手)の人数は男子が8,874名、女子は4,862名。彼・彼女たちが1年間に使う経費(遠征のための旅費や滞在費、用具台や食費など。ただしコーチ代等は含まない)は男子38,800ドル、女子が40,180ドル。実際には多くの選手がこれ以外に、コーチやトレーナーの雇用費を払っている。 そして、得られる賞金と経費の額がほぼ同額になる選手の地位(世界ランキング)は、男子が336位、女子が253位。つまり男女合わせて1万3千人以上いる“プロ”のうち、純粋に賞金だけで黒字になるのは、わずか5%弱ということになる。 このような“食べていけないプロ”の多さが不正の温床になっているとの判断もあってだろう、ITFは2019年施行を目処に、下部ツアーサーキットの大幅な構造改革に取り組みはじめた。 現行のシステムでは、賞金総額1万5千ドルの大会も含め、ITF管轄にある全ての公式トーナメントでATP及びWTAランキングポイントが得られる。しかし新たな構造では、現存する1万5千ドルの大会を廃止し、代わりに“トランジション・ツアー”を設立。これらの大会ではランキングポイントは与えられず、代わりに“ITFエントリーポイント”が配布される。そのITFエントリーポイントを一定数獲得した選手たちが、ATP/WTAポイントを得られる大会の参戦権を獲得。このようにシステムを階層化することにより、試合数を規制し、ランキングポイントを持つ選手の数も男女それぞれ750名に減らすことを目指している。また、トランジション・ツアーは地域性を強め、開催国のテニス協会・連盟に運営が委ねられる予定。これにより、若手選手たちの参戦コストが軽減されると見られている。 このプランを知ったロジャー・フェデラーは、「選手たちは安心してテニスに打ち込める環境を、そしてファンは真剣勝負を見ることを望んでいる。選手数を制限することが腐敗防止につながるなら、それは悪いことではない」と賛同の意を示した。 八百長などのニュースが続けば、テニス競技そのものの信用が損なわれる。同時に選手たちはSNS等を通じ、毎日のように賭けで損失を被った人々から「殺してやる」などの脅迫めいたメッセージを受け取ってもいる。フェデラーが言うように、選手とファン双方を守り競技の清廉性を保つためにも、抜本的な改革が求められる時なのかもしれない。 (文責・内田暁/スポーツライター)