【連載】会社員が自転車で南極点へ12 「南極点」(最終回)
指差した先に黒い豆粒 あれが南極点
【連載】会社員が自転車で南極点へ12 「南極点」(最終回) THEPAGE大阪 執筆・撮影:大島義史 編集:柳曽文隆
「あれが、南極点だ!」。エリックが指差した先にある黒い豆粒。それは、南極点にあるアメリカの基地、アムンゼン・スコット基地だった。
思い出す旅行に費やしてきた5年間
真っ白な雪原を進む。今日は風が強く、前に進むのは、いつも以上にきつく感じた。しかし、これで終わりなのだ。今日をもって、南極自転車旅行は終了する。 クリスマス・イヴに独り、関西空港に向かったこと。エリックとの喧嘩や、一緒に歩いた雪の平原、家内や娘の顔。そして、この旅行のために費やしてきた5年間の色々な出来事が思い出される。前に進む旅に、徐々にその黒い粒は大きくなっていく。もう、間もなく、南極点に到着する。 南極点にあるアムンゼン・スコット基地は思いのほか大きく、その基地内を動きまわるのも一苦労だった。南極点周辺に到着して、まず、僕達が行ったのは、基地の隣にあるANIのテント基地に顔を出すことだった。テントの中は非常に快適で、暖かいストーブもたかれていた。ここで美味しいお茶と昼食をごちそうになった。
「Yoshi! 南極点に行こうぜ」
テントは、小さいながらも色々な機能を備えていた。食事の調理をする厨房、食堂、ベッド等の休憩設備があった。更にはパソコンがおいてあって通信施設も兼ねているようだった。ホワイトボードがつりさげられており、今、南極を旅行している全てのパーティの位置が経度・緯度で正確に記してあった。 「Yoshi! 南極点に行こうぜ」 テントの中で、すっかり寛いでいた僕をエリックが急かした。そうだ、思わずアムンゼン・スコット基地に着いた時点で安心しきっていたが、南極点にはまだ、到達していないのだった。 僕達は、防寒着をつけて、改めて自転車に跨った。ANIのキャンプから南極点までは、一直線に雪の道が延びていた。 ちょうど、800メートル程の距離だった。これが本当の最後のランだ...ゆっくりと僕はペダルを踏み込んだ。
エリックは、ものすごいスピードで南極点に
一方のエリックは、ものすごいスピードで南極点に向かって疾走して消えた。一応ガイドなんだから、もうちょっと歩調をあわせるとか、しないのかなぁと苦笑してしまったが、これも彼らしいといえば、彼らしい。 南極点には、多くの旗がはためいていた。アメリカ、イギリス、ドイツ、チリ、南アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド。南極に基地をもっていたり、あるいは、南極の付近に領土があったりと、少なからずこの大陸に縁がありそうな国々の旗が並べられている。その中に、ひとつ、アジアの国の旗もあった。日本の旗だ。 これらの旗に囲まれるように、銀色の球体が載せられた棒が立っていた。南極点だ。僕は幾度となく、ここに到達することを夢見てきた。そして今、それが現実になったのだ。