元大関・貴景勝、「手にセンサーがある。押すか引くかの…」独特の言い回し…これからは”しゃべる”湊川親方にも注目
◇記者コラム「Free Talking」 記憶にかろうじて残っていた明るい表情が、すっきりとした輪郭とともに戻ってきた。九州場所前の11月上旬、秋場所限りで引退した元大関貴景勝の湊川親方を取材するため、福岡県篠栗町の常盤山部屋宿舎に足を運んだ。新入幕会見以降、記者が中日ドラゴンズ担当だった期間を除いた約5年間、突き押しの技術論や力士の心構えに耳を傾けた。 朝稽古の終わりに「現役生活、お疲れさまでした」の思いと新たな門出のお祝いで、初優勝が2018年の九州場所だったことにちなみ、博多織の名刺入れを手渡した。当時の締め込みと同じ紫色。「おっ、かっこいいじゃん。大切にします」。出世するにつれて減り、大関時代は報道陣の前でほとんど見せなかった笑顔が眼前に広がった。 新米親方として本格的に歩み出したのが九州場所なのも、何かの縁かもしれない。初めて番付に載ったのが14年同場所。全勝で序ノ口優勝を果たしたが、福岡国際センターの正面の広場で、場所入りする幕内力士と自身の体格差に圧倒されて「やっていけないんじゃないか」「この世界では無理かな」と思い悩んだ。迷いなく番付を上げたわけじゃない。だからこそ若い衆を温かく見守り、背中を押す。 「現役時代、必要以上にしゃべらないようにしてたんで」と打ち明けた親方は「話す機会は、これからの方が多くなるでしょ」と再び笑った。 そんな言葉通り、花道の警備の合間に鉢合わせると中継モニターを見ながら、自身と同じ突き押しを得意とする阿炎の相撲ぶりを「手にセンサーがある。押すか引くかのタイミングが完璧」とレクチャーしてくれた。今後も元大関の何げない一言を聞き逃さず、相撲ファンに届けていきたい。(大相撲担当・志村拓)
中日スポーツ