トヨタとNTTが5000億円規模の「通信連携型安全基盤」を構築、通信とAIを組み合わせた新たなアプローチ
両社の技術は補完関係にある。SDV化で増大する車両データの処理に、IOWNの大容量・低遅延通信が不可欠となるためだ。 ■3つの基盤が支える未来のモビリティ では、具体的に両社は何を作ろうとしているのか。その答えは「3つの基盤」にある。 第1の基盤は、分散型計算資源データセンターだ。トヨタの試算では、2030年にはSDVの普及により、通信量は現在の22倍、計算量は150倍に達する。この膨大な処理需要に応えるため、NTTのIOWN技術をベースとした光技術による低消費電力データセンターを全国各地に分散配置し、車両から送られる大量のデータをリアルタイムで処理する。
第2の基盤は、インテリジェントな通信基盤である。車からの位置や速度、周辺状況などのデータを絶え間なく収集し、人やインフラとの情報連携を実現する。これまでの通信は「つながる・つながらない」の二択という状況だった。これに対し、つながりにくくなる状況を察知して賢く通信相手を切り替えながら、途切れない通信環境の実現を目指す。 第3の基盤は、モビリティAI基盤だ。島田社長はこれを「ラージモビリティデータモデル(LMM)」と呼ぶ。市場から収集した実際の走行データをAIが継続的に学習し、さまざまな運転シーンを生成する。これまでのAIは大量のデータが必要だったが、より少ないデータでも効率的に学習できる仕組みを構築。シミュレーションの精度を高めることで、自動運転支援やAIエージェントサービスの迅速な改良を可能にする。
■協調と競争の新たな形 この構想の特徴的な点は、基盤を「協調領域」として位置付けていることだ。トヨタの佐藤社長は、通信・データ処理基盤を他の自動車メーカーにも開放する考えを示した。従来、各社が個別に開発していた基盤システムが共通化され、車両単体での開発コストは削減される。一方で、基盤上でのサービス開発は各社の「競争領域」となる。 この発想は、現代のデジタルプラットフォーム戦略と軌を一にする。基盤は共有し、そのうえでのサービス競争を促すことで、業界全体の発展を目指す。データ活用力やサービス開発力が、新たな競争軸として浮上してくる。