世界最大のサンゴを発見、宇宙から見える巨大さで推定300歳、南太平洋ソロモン諸島沖
キリスト教の布教活動から新型コロナのパンデミックまで
研究者は通常、サンゴの高さから年齢を推定する。この群体サンゴの高さは約5mなので、年齢は約300歳ということになるが、もっと古い可能性もある。通常、コモンシコロサンゴの群体は、丸くすくったアイスクリームのようなドーム状をしているのだが、「この群体は解けたアイスクリームのように平べったい」からだとティマーズ氏は言う。 つまり、この群体サンゴは歴史的な大事件をいくつも生き抜いてきた。19世紀からソロモン諸島を訪れるようになったキリスト教宣教師たちの姿も、第二次世界大戦も、そして新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)の時代も。 「本当にすごいことです。生命がこの巨大なコロニーを形成し、維持してきたのです」とティマーズ氏は言う。「海の中のご先祖様のようなものです」
北極圏のホッキョクグマのような生物
巨大サンゴは、これまでの300年間に、地球温暖化、乱獲、汚染、都市や農業の発達、海洋酸性化など、海洋環境の著しい変化を目の当たりにしてきた。 サンゴは環境の変化に非常に敏感だ。フィンドレイ氏は、「熱帯地域のサンゴは北極圏のホッキョクグマのような生物なのです」と言う。 人間が排出した大量の二酸化炭素が海洋に吸収されると、海水の酸性度が変化し、サンゴにストレスを与えるおそれがある。「気候危機は、海洋をより高温に、より酸性に変え、世界中のサンゴを蝕んでいます。メガサンゴも例外ではありません」とサラ氏は言う。 サンゴは水中の炭酸カルシウムを利用して骨格を形成しているため、海水が酸性化すると、強い骨格を形成して健康に成長するのが難しくなる。 「人間の場合と同じです。カルシウムや炭酸カルシウムが不足すると骨粗しょう症になり、骨がスカスカになって弱くなってしまいます。サンゴにも同じことが言えるのです」とフィンドレイ氏は言う。
健康状態は良好、希望の光か
世界中のサンゴが白化現象の影響を受けている。2023年から2024年にかけては、世界のサンゴ礁海域の77%が白化してもおかしくない高温にさらされた。そんな中、これだけ巨大な群体サンゴが良好な健康状態にあるという事実は、サンゴには気候危機を生き延びるだけの回復力が備わっているのではないかという希望を与えてくれる。 とはいえ、調査チームが訪れた近隣のサンゴ礁ではすでに多くのサンゴが死んでいた。ティマーズ氏は、メガサンゴの良好な健康状態のカギは、近隣のサンゴ礁よりも水深が深く、水温の低い海域にあり、大陸棚と斜面によって保護されていることにあるのではないかと考えている。「本当に理想的な場所にあるのです」 ソロモン諸島の地元のコミュニティーは、この発見が彼らの海域の公式な保護につながることを期待している。ティマーズ氏によると、ソロモン諸島では、海域は地元のコミュニティーが所有しているという。彼らは14年前から非公式にこの海域を保護しており、州レベルでの保護も受けているが、国の支援も求めている。 サラ氏にとって、メガサンゴの発見は、世界の野生生物の生息地を守り、回復させることの緊急性を強調するものだ。 1.5℃以上の地球温暖化は、サンゴ礁に壊滅的な悪影響を及ぼすおそれがある。サラ氏は、化石燃料の段階的廃止と海洋の30%の保護が不可欠だと主張する。現在、各国政府の規制によって保護されている海域は、全体のわずか8.4%にすぎない。 ティマーズ氏は、地球規模で環境破壊が進む中で、この驚くべき光景を目にしたとき、サンゴが「私たちはまだここにいる。私たちのことを忘れないで!」と叫んでいるように感じたという。
文=Melissa Hobson/訳=三枝小夜子