山田洋次監督の歩みや作品の解説書 フランス人ジャーナリストが800ページに込めた愛
山田洋次監督の『男はつらいよ』シリーズや『幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ』といった作品に加え、監督の生い立ちや、歩みを解説した『山田洋次が見てきた日本』(大月書店)が9月、出版されました。著者はフランス人のクロード・ルブランさんです。この本はフランス語で書かれたものを日本語に訳したもので、約800ページの大作です。ルブランさん自身、原著を書くのに「心血を注いだ」と言います。なぜそこまで寅さんや山田監督に引かれたのか、ルブランさんに聞きました。(聞き手:丹内敦子) 【画像】高知県安芸市にある「寅さん地蔵」
【クロード・ルブラン/Claude Leblanc】日刊紙『ロピニオン(L’Opinion)』のアジア担当論説記者。1964年フランス生まれ。ジャーナリスト、作家。1990~1993年、ルモンド・ディプロマティークの日本特派員。2005年に週刊誌『クーリエ・アンテルナシオナル』編集長に就任。2010年、フランス語による日本情報誌『ズーム・ジャポン』を創刊し編集長に。著書に『車窓から見た日本』など。 ――ルブランさんと『男はつらいよ』の出合いは、1984年に栃木県で、ホームステイ先の家族と映画館で観(み)たときだったそうですね。この作品や主演の渥美清さんの最初の印象はどんなものでしたか。印象はシリーズを見るにつれて変化しましたか。 1984年に初めて『寅次郎真実一路』を見たとき、私の日本語の知識は非常に限られていました。(日本語の教科書に出てくるような)いくつかの丁寧な表現以外はよく分からなかったのですが、それでもこの映画を楽しめました。 最も感動したのはヒューマニズムの側面です。これは山田監督の映画の特徴のひとつです。彼の映画は、登場人物たちのやりとりに温かみがあり、それがとても印象的で、最後は観客自身の心に響きます。2022年にパリ日本文化会館で開かれた「寅さんとの1年」と題する企画上映会でも、映画が終わると観客は笑顔で映画館を後にし、作品について語り合い、大きな幸福の瞬間を持ち帰るのです。 渥美清さんの演技も素晴らしい。チャップリンがサイレント映画で見せたように、彼には感情を伝える能力があります。ですので、言葉がほとんどわからなくても、この最初に出合った作品を十分に楽しむことができました。そして数年後、日本に住むようになったとき、この監督のほかの作品にも出合いたいと思いました。 ――ルブランさんにとって『男はつらいよ』との出合いは「運命」であり、山田監督の作品を日本やフランスで多くの人に知らせることが自分の「使命」だと書いています。山田監督の作品の魅力はどこにあると思いますか? 山田監督の映画のおかげで、私は地理的、社会的、経済的に多様な日本を発見できました。作品をとおして、日本が進化するのを目の当たりにし、断絶の瞬間を把握し、日本が直面している課題を理解することができました。 監督には鋭い観察眼があります。少年期を旧満州で過ごした彼は、少し引いて客観的に日本を見る習慣を身につけました。同時に、日本人が外国人に批判されているように感じることなく、日本人に受け入れられやすく伝える方法を知っている。これは彼の映画の強みのひとつであり、彼のメッセージが観客の心に響く理由でもあると思います。