「アダルト動画」に無断で自分の声が…“声優”業界が「生成AI」に危機感をあらわにする切迫した事情
なぜ、声優の間で抗議の輪が広がらない?
――若手の声優ですと、SNSをやっている方はたくさんいますよね。ただ、一部を除けば、政治的な発言や主張をする方は少ないように見受けられます。 福宮:おっしゃるとおりで、声優はもともと政治的な発言を避ける傾向があります。というのも、声優は演じているキャラクターのイメージを毀損するわけにはいかないからです。そうした点に配慮しながら、後輩のために業界内で頑張ってくださっている先輩方はこれまでもいらっしゃいます。しかし、ここまで生成AIが広まってくると、業界内だけで収まる問題ではなくなっていますから、外に向けて発信する段階にきているのではないでしょうか。演じたキャラクターのイメージを守ることはとても大切ですが、我々もイチ国民であり、イチ人間であるということは受け手側にもご理解いただきたいなと思います。 ――先ほどの福宮さんのお話にもありましたが、生成AIが既存の仕事を奪うのではないか、という危機感は以前から共有されてきました。声優の仕事については、いかがお考えですか。 福宮:アメリカで映画俳優組合の「SAG-AFTRA」がストライキをしているように、声優も生成AIに置き換えられるのではないか、という危機感はもちろんあります。特に危惧されるのは、洋画などの吹替の仕事です。一時期、Netflixバブルという現象があって、洋画の吹替の仕事が増えた時期がありました。ところが、統計をとったら、過半数の視聴者が字幕で見ていたことがわかったそうなんですね。そうした影響を受けて、仕事は減少傾向にありましたが、追い打ちをかけるように生成AIが登場しました。今後、例えばハリウッド俳優の声を生成AIで作成し、日本語で吹き替えができてしまうと、吹き替えを手がけている声優の多くが失職する可能性は高いですね。 ――それは非常に深刻な問題ですね。 福宮:主役級のキャストだけでなく一言二言、というキャストが生成AIに置き換わってしまったとしたら、新しく業界に入る人たちが非常に厳しい立場に追いやられてしまうと思います。声優の多くは、そういったセリフが少ない仕事からスタートしてスタジオに入り、音響監督や先輩方に覚えていただくということが最初の一歩なんです。その一歩目を奪われてしまうと、業界がどんどん縮小してしまうのでは、と強い危機感を持っています。 ――仕事を奪われること以上に、声優の人格権を侵害しているのではないか、と思われる事例が出ていることも問題視されます。 福宮:それが大きな問題なんですよ。日本俳優連合でも被害情報を集めていますが、被害の実数はとんでもない数になっています。例えば、生成AIを使って作成した「新世紀エヴァンゲリオン」の綾波レイと碇シンジが絡み合う動画に、やはり生成AIで作成した声を組み合わせた動画まで登場しています。はっきり言って嫌悪感しかありません。個人で楽しまれるのは、著作権法でもこれは許容されているものですが、それを誰もが目にすることができるインターネット上にアップロードするというのは、言語道断だと思っています。 ――そんなものまで出ているんですか。 福宮:皆さんが知っている国民的なキャラクターを演じる声優さんも、被害に遭っています。ネット上ではキャラクター名や声優の名前を出さない形で、例えば野沢雅子さん風のRVC(合成音声ボイスチェンジャー)まで売られているんですよ。しかも、商用利用OKを謳い、声を素材として販売しているのです。これはファン活動の域を超えていますし、明確にパブリシティ権の侵害でしょう。