<夏に咲く・2020甲子園交流試合>番外編 背番号ない役目、やり遂げた 日本航空石川・菊池直哉主務(3年) /石川
16日の甲子園高校野球交流試合。鶴岡東(山形)との対戦で日本航空石川の「主務」、菊池直哉さん(3年)は試合前練習のノックバットで軽快な打音を響かせた。中村隆監督が指導を始めて3回目の甲子園で初めて部員にノッカーを任せた。 【真夏の熱闘】交流試合の写真特集はこちら 岐阜県出身。甲子園を目指して同校の門をたたいた。幼なじみの毛利水樹選手(同)も入学することを知り、「2人で甲子園に行こうな」。しかし、外野手だった1年生の夏ごろ、右肩を痛めた。数カ月後には追い打ちをかける出来事も起きた。 投げたいところに投げられない、思い通りのプレーができなくなる「イップス」に悩まされた。投げたボールが意思とは違うところに向かったり、わずか10メートルの距離を投げるのにワンバウンドになったり。野球としばらく距離を置こうと、練習の補助に回った。 「野球をやめます」。昨年7月、コーチに退部を伝えた。マネジャーへの転向を打診されたが「甲子園に行きたくて来た」とはねつけた。「あと1年ちょっと。一緒に頑張ろうや」。仲間の言葉にも心は動かなかった。 しばらくして中村監督に呼ばれた。「主務はどうや」。ノックにダッシュの笛吹き、打撃投手、打撃練習中の動画撮影……。同校野球部独特のポジションで、指導者と選手の間に入り、さまざまな調整も行う。「もう一度野球と向き合えるようになるかもしれない」。指導者に近い役割に心が動いた。「自分が決めた道なら頑張れ」という両親の後押しもあり、決心した。「日本一の主務になる」 試合前練習の7分はあっという間だった。「形は違っても甲子園のグラウンドに立つことができた」。仲間との最後の野球を存分に楽しむかのように生き生きとノッカーを務めた。選手として甲子園に立ちたかった、という思いは今も心のどこかにはある。それでも「野球をやめなくてよかった」。背番号のない主務をやり遂げたことに達成感がある。【井手千夏】