「助けてください」記者に届いたSOS ボロボロの歯、赤い靴を履いた青年はどこに消えたのか
●明かされた本当の名前
「ルイト君の本当の名前が分かりました」 2020年1月23日、彼の支援者から着信があった。電話口で聞いた名前をネットで検索すると、ある事件を伝えるニュースが表示された。 彼は約10年前、東京都内で窃盗事件を起こしていた。人を傷つけるような事件ではなかったが、当時テレビが報じたニュースはネット上に転載されたまま今も残っている。 そこには、警察から検察庁に身柄を移送される際の彼の顔が鮮明に写り、容疑者として彼の本名が映し出されていた。 20歳と言っていた年齢は10歳ほどさばを読んでいたことが明らかになった。 「今まで本名を名乗らなかったのはネットに事件のニュースが残っているからなの?」 そう尋ねると、ルイトはぼそりとつぶやいた。 「そういう感じです。すごいニュースになったんで。今でも出てくる」。 “ルイト”はこれまでの人生を改めて語り始めた。 高校を中退してホストになったが、女性客の借金を背負わされて窃盗を繰り返すように。逮捕され執行猶予付きの有罪判決を受けた。 頼る先はなく、その後は麻薬の売人に。面倒を見てもらっていた暴力団の組員が逮捕されたタイミングで逃げ出し、身を隠しながら生きてきたという。 その話に不自然な点は感じなかったが、裏付ける証拠がないため、本当かどうかは定かではない。
●生活保護を申請するも…
身元が判明して一夜が明けた日、彼の姿は福岡市東区役所にあった。 生活保護を申請するためだ。本名は分かったが、彼にはそれを証明するすべがなかった。 区役所の担当者は「あなたが○○(本名)さんだということを確認できないわけですよね…。身分を確認できるものが何もないのは私も初めてです」と苦笑いを浮かべた。 この日は窓口で就職活動の進捗や前科前歴について確認があり、彼はボロボロの歯を治療するために「歯医者に行きたい」と言った。 抱樸館福岡に入所する時、彼は今後の抱負を1枚の用紙にこう書いていた。 「生活を立て直し、一日も早く社会復帰し、仕事を見っけて、働きお金を貯め、更生していきたいと思います。お金の有難みを考え、働らける事に感謝して、一日一日を有意義に過ごしていきたいと思います」(原文ママ) 焦らずに生活を立て直そう。そんな話をしながら区役所を後にした。 しかし。彼はまた姿を消した。私が送ったラインのメッセージには既読マークが付かないまま、チャットからも退出していった。