太平洋戦争中に裁判は行われていたのか? 戦時下の弁護士がおかれた状況【朝ドラ・虎に翼】
NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』では第8週「女冥利に尽きる?」が放送された。主人公・佐田寅子(演:伊藤沙莉)は夫・佐田優三(演:仲野太賀)との間に子供ができたことをきっかけに、悩み抜いた結果雲野法律事務所に辞表を出した。作中では雲野六郎(演:塚地武雅)も仕事に忙殺されていたが、太平洋戦争中、戦況が悪化するなかで弁護士はどのような仕事をしていたのか? モデルである三淵嘉子さんの過去も踏まえて解説する。 ■朝ドラが描き出す働く女性の苦悩 弁護士として仕事を抱え込んでいた寅子の脳裏には、常に明律大学女子部法科で共に学んだ同級生らの姿がある。日中戦争が勃発し、情勢が悪化するなかで祖国朝鮮に帰国することを決めた崔香淑(演:ハ・ヨンス)、爵位剥奪を回避し家を守るために婚約を決めた桜川涼子(演:桜井ユキ)、弁護士である夫に虐げられ、離婚を突き付けられて三男を連れて家を出た大庭梅子(演:平岩紙)。彼女らの流した涙の分まで自分が背負っていかなければと思っているのだ。 ところが、現実は想像以上に地獄だった。寅子と共に高等試験に合格した先輩・久保田聡子(演:小林涼子)は、「婦人らしさ」という型に押し込まれて疲弊しきり、弁護士を辞めるという。中山千春(演:安藤輪子)も出産を機に仕事から離れていた。 山田よね(演:土居志央梨)は高等試験合格を目指して勉学を続けているものの、これで現役の女性弁護士は自分1人であるという孤独感と責任感、そして結婚・妊娠したために「良き妻・母であれ」といういくつもの呪縛が寅子を苦しめていたのだ。 作中では戦況が悪化するなかでも多忙を極めていた寅子だが、実際戦時中の弁護士はどのような状況におかれていたのだろうか。 ■司法制度も戦時体制に入り刑事訴訟がメインに まず当時の司法の状況をみてみよう。第二次世界大戦中の日本では司法制度すら戦時体制に組み込まれていた。昭和17年(1942)の裁判所構成法戦時特例は、戦時民事特別法・戦時刑事特別法と同時に成立し、3月に施行されている。弁護士や裁判官など司法関係の職に就く男性らも次々出征していったため、人員が不足するなかでも迅速に裁判を行うことが目的だった。 例えば、頻発する窃盗については予審を経ていないものを区裁判所の権限に委ねたり、控訴審を省略した二審制を導入して簡略化するなどしている。こうした戦時下の特例は終戦まで何度も改正され、より簡略に、スピーディーにする方針がとられた。 最後の改正は終戦のわずか2ヶ月前、昭和20年(1945)6月20日公布(即日施行)である。この段階になると、空襲によって裁判所が焼失するケースも多発していたことから、裁判所以外での裁判行為を認めたり、書記が不足していたことから検事・判事が書記も兼任することを認めたりした。 ちなみに、法服も焼失するなどして作り直しが難しくなっていたから、この時に服装規定が緩和されている(むしろこの段階まで服装規定があったことに驚く)。 離婚などの民事訴訟こそ戦時下で激減したが、刑事訴訟に関してはそういうわけでもなかった。作中でも言論、出版、集会、結社等臨時取締法による発禁処分等が取り上げられていたが、言論弾圧に関わる裁判も少なくなかったのである。 また、寅子のモデルである三淵嘉子さんは、民事裁判が減ったことから母校である明大女子部での教育にシフトしていったという。昭和19年(1944)には、助教授となっていた。
歴史人編集部