いまやシリア全土の半分を制圧 “完全復活”した「イスラム国」
一転、ラマディとパルミラを制圧
しかし、「イスラム国」の劣勢もそこまでだった。戦況はしばらく膠着状態に入ったが、5月6日にはバイジ石油施設を制圧(6月8日に奪還)、5月17日には前述したようにラマディを制圧し、やはりイラク政府軍から再び大量の武器を鹵獲(ろかく)した。現在、イラク政府軍とシーア派民兵が奪還を目指して戦闘中だが、奪還には至っていない。 他方、シリアではコバニ攻防戦の後、各地で一進一退の攻防となっていたが、「イスラム国」はその間もホムス県や東部デルゾール県などで徐々に勢力を伸ばした。前述したダマスカス市内のパレスチナ難民キャンプの制圧は今年4月上旬、パルミラの制圧は5月20日である。 現在もアレッポ市北部近郊でシリア反政府軍を攻め立てているほか、北東部の主要都市ハサカではシリア政府軍とクルド人部隊に対して有利に戦いを進めており、さらにデルゾール市中心部に立てこもるシリア政府軍をまさに攻め落とそうという勢いである。昨年来、「イスラム国」はシリア全土の3分の1を支配していたが、現在はほぼ2分の1に支配地域を拡大し、現在も拡張中である。 「イスラム国」の勢いは完全に復活したといえる。
ISはなぜこんなにしぶといのか?
「イスラム国」がこれほどしぶとい理由は、いくつもある。まずは、「イスラム国」と戦う陣営の力不足だ。 イラクでは、米軍3000人を中心として有志連合の軍事顧問団が入り、イラク政府軍を訓練しているが、それがなかなかうまくいっていない。本来は今年4月にも「イスラム国」が占拠している北部の主要都市モスルに対する奪還作戦が開始される予定だったが、その準備はまだまだ整っていない。 前述した5月のラマディ陥落も、数千人の重武装のイラク政府軍は、数百人規模の「イスラム国」部隊を前に逃亡するという失態をみせている。「イスラム国」側はこの攻略作戦で、30件以上もの自爆攻撃を実行しており、両者の士気の違いは明らかだ。イラク政府軍には作戦や指揮統制にも問題がある。 シリアでは、シリア政府軍と反政府軍が熾烈な戦いを繰り広げており、「イスラム国」はその間隙を衝いて支配地を広げている。政府軍も反政府軍も、互いを主要な敵と位置づけており、「イスラム国」を駆逐する戦力を振り分ける余裕はない。シリア政府軍などはむしろ、反政府軍の力を殺ぐために、「イスラム国」を助けるための空爆すら実施しているほどだ。