<紫龍―愛工大名電・センバツまでの歩み>/中 左腕快投、秋の県王者 一皮むけた野手も援護 /愛知
マウンドに登った愛工大名電のエース左腕、大泉塁翔(るいが)(2年)は、大きく深呼吸して気持ちを落ち着けた。 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち 昨秋の愛知県大会の2回戦から2試合続けてコールド勝ちして迎えた準々決勝。相手は愛産大工だった。試合前のブルペンで自分の調子が読めず、最速149キロ右腕の伊東尚輝(2年)も体調不良でベンチを外れていた。「いつもなら安心して後を託せる伊東がいない。できるだけ長いイニングを投げないと」。緊張感は一段と高まった。 愛産大工は県内屈指の強豪である中京大中京を破ってきた。勢いに警戒しながら臨んだ一回。先頭打者に投じた直球は140キロ前後を計測した。制球が安定し、得意の変化球も切れて三振を奪った。2死後に安打を許したが、けん制で刺して無失点。「調子がいいな」。波に乗った。 五回と七回に死球や安打で先頭バッターを出したが、いずれも直後の打者を併殺に抑え、主導権を握り続けた。テンポ良く真っすぐと変化球を投げ分け、終わってみれば被安打4、奪三振10、四死球1で完封。宍戸琥一(こいち)(2年)のソロによる1点を守り切り、球数100球で相手に二塁を踏ませなかった。 「高校に入ってからのベストピッチ」。大泉はこう振り返り、捕手の板倉鉄将(2年)も「球が低めに集まり、直球も伸びていた」とたたえた。 エースの快投が光る一戦だったが、倉野光生監督は1点を争う接戦で守りのミスがなかった点にチームの成長を感じていた。守備を固めるため部員は自主的に朝5時からノックを受けていたが、3回戦で2失策を記録するなど安定感には欠けた。指揮官は「プレッシャーのかかる展開で、無失策で失点しなかったことは大きな自信になった」と語る。 大泉は、豊橋中央との準決勝でも好投を続け、被安打3、奪三振12、四死球2で完封。バックも無失策だった。打っては1年の夏から甲子園で先発出場し、「自分が打線を引っ張る」と意気込む3番の石見颯真(2年)が、2得点に絡む3安打と気を吐いた。 決勝の相手は、「私学4強」の一角である東邦を退けてきた豊川だった。先発した大泉が8回1失点と粘投する中、新チーム発足時に不振に陥っていた主将の山口泰知(2年)の適時打などで小刻みに得点を重ねた。 六回に打者一巡の攻撃で4点を挙げると、九回は倉野監督が「素質は十分」と評する古谷龍斗(2年)、礒田桜士朗(1年)、伊東が1死ずつ継投して3人で仕留め、7―1で快勝。12年ぶり6回目の「秋の愛知王者」に輝いた。【黒詰拓也】(題字は倉野光生監督)