高級コンビニの フォックストロット 、拡大路線を進むなか突然の全店舗閉鎖。元従業員が感じていたある「異変」
全国への野心と、その撤回
フォックストロットは高級コンビニエンスストアチェーンの構築をめざし、2015年にまずシカゴで開業した。フォックストロットがほかのコンビニと違うのは、品揃えと雰囲気の両方だ。ラビトラ氏は、店舗を従来のコンビニとは正反対の雰囲気にしたいと、ザ・ニューコンシューマー(The New Consumer)に語っている。それは、「行くのが楽しみな場所」だという。「それは、何かクールなものを見つけに行ったり、おもしろい音楽がかかっていたり、店員が何か新しいものを教えてくれそうな場所だということだ」。 また、店舗のほとんどは都市部にあり、朝はコーヒーとペストリー、午後はフレッシュな自家製サラダとサンドイッチ、仕事帰りにはローカルブルワリーのビール6缶パックのように、会社員が仕事前、仕事中、仕事後に欲しくなるものをすべて取り揃えていた。店内には、夜はワインバーになるカフェスペースもあり、居心地よく長居できる。 さらに、フォックストロットは、地域とつながりのある商品や社会的影響力のある商品を紹介・表彰するアップアンドカマー賞(Up and Comers awards)などの取り組みを通じて、飲食業界のクールなトレンドの権威としての地位を確立しようとしていた。 デリバリーも重点分野のひとつだった。2019年、デリバリーはフォックストロットの売上の半分を占めた。当時、フォックストロットのデリバリー圏内にいる顧客は、1時間以内に商品を受け取ることができた。配送料は5ドル(約780円)で、注文のフルフィルメントと配達はすべて自社の配達員が行っていた。 共同創業者のラビトラ氏は当時、米モダンリテールに、自社の配達員を利用することが「サービスレベルを維持する唯一の方法」だと語っていた。 当初、フォックストロットは事業拡大に関してゆっくりとした体系的なアプローチをとっていた。4年間はシカゴでのみ営業し、2014年になって別の都市、ダラスに進出した。最初の頃、フォックストロットはデリバリーをサポートするため1つの都市に少なくとも3~4店舗をオープンするという戦略を掲げていた。ある都市でそれを実現してから、新たな都市に進出するという方針だ。 しかし、それは2022年に変わりはじめた。シリーズCで1億ドル(約156億円)を調達したあと、フォックストロットの野心は全国に向けられ、すぐに大規模な成長計画を発表した。同社はプレスリリースで、2022年に新たに25店舗をオープンする計画だと発表した。次の3カ月で技術チームを3倍に増やす計画だとも述べた。フォックストロットは、パンデミック中にオンライン注文率が上昇したことに刺激を受け、注文のフルフィルメントをさらに高速化し、デリバリーなら30分、店舗受け取りなら5分で完了するための投資を行った。 6カ月後、フォックストロットはヘアケアチェーンのドライバー(Drybar)とファストフードチェーンのタコベル(Taco Bell)の拡大に携わっていたリズ・ウィリアムズ氏をプレジデントとして迎え入れた。同氏は2023年4月、CEOに昇格した。 「ウィリアムズ氏は数字に100%の焦点を当てていて、それが得意だった」と元従業員A氏は語った。しかし元従業員B氏は「個人的に、リズ・ウィリアムズの経営者としての決定とやり方に満足していない人を大勢知っている」と反論した。 ウィリアムズ氏がフォーカスしたのは、ブランドの成長と全国化だった。その後、特に2023年に経済環境が悪化したため、同氏の役割はコスト削減に変わった。そして、部門によっては従業員に嫌われるような多くの決定事項を監督することになった。 同氏の任期中に、フォックストロットはデリバリーを自社で管理することをやめ、サードパーティのデリバリープラットフォームに委託するようになった。運営と店舗注文の合理化も大きな重点分野だった。たとえば、フォックストロットはカフェプログラムで地元の農家や業者を利用することをやめ、代わりに農産物や肉などの商品を注文する際に大企業と提携することを選んだ。 各店舗の収益性を確保するために、家賃、人件費、在庫の適切なバランスを見つけ出すことも、特にコンサートなどのイベントに客足が依存している店舗では課題だった。 野球場のリグレーフィールド(Wrigley Field)の近くにあるフォックストロットの店舗は、良ければ1日に1万ドル(約156万円)、悪ければ1日に1500ドル(約23万円)を売り上げる。2人の元従業員は、問題のあるもうひとつの店舗として、シカゴのトリビューンタワー店を指摘した。同店舗の1週あたりの売上は約1万ドル(約156万円)から1万4000ドル(約218万円)で、採算が取れていなかった。 一方で、店舗人件費の削減も大きな焦点だった。元従業員は、人件費を抑えるために店長が週70時間以上働いているような店舗もあると聞いたという。 そして、時間の経過とともに徐々にナタが振るわれた。従業員は、2022年から2023年にかけて複数回のレイオフがあったと話した。フォックストロットは以前、マイアミで賃貸契約締結について協議していたが、この協議は2023年に中止された。従業員優待も消えはじめた。たとえば、以前パートタイマーに毎月付与していたフォックストロット店舗での商品購入に使用できるクレジットの提供を中止した。ただし、この特典は、社員には引き続き提供されていた。