そのバッテリ、充電は何W対応?
モバイルバッテリ、パワーバンク、呼び方はいろいろだが、デジタルガジェットの携行が新しい当たり前になりつつある現代社会において、必須とは言わないまでも、少なくともあると便利な存在になっている。バッテリはその容量と重量だけ分かっていればいいわけじゃない。Sharge社の注目製品「Shargeek170 Power Bank」を使わせてもらうことができた。今回は、その使い勝手から、モバイルバッテリの注目ポイントについて考えてみる。 ■ 毎時8Wh程度を使うモバイルノートPC 先日、久しぶりにほぼ丸1日続くセミナーイベントに出席した。机はあるがAC電源は確保できないという環境で、休憩時間以外、ずっと座りっぱなしで講演を聴くというものだ。机があるのでメモなどはラクチンだ。当然、ノートPCを持参し、机の上でディスプレイを開いて、重要なキーワードなどについて逐次メモをとる。 丸1日のイベントなので最新ではないノートPC本体の内蔵バッテリだけでは稼働時間が不安だ。こまめに閉じてスリープさせるなど大事に使えば最後まで保つかもしれないが、保たないかもしれない。そういうことを考えること自体が面倒だ。 その日使っていたノートPCが内蔵しているバッテリは45Whのリチウムイオンポリマーバッテリだ。PCを開いてする作業はメモ取りだけではない。TeamsやZoomのようなヘビーなアプリは使わなくても、Outlookにはセミナー中にもメールが届くし、場合によっては届いたメールにすぐに返事をする必要もある。もちろんメッセンジャーなどに連絡も入る。こうした内職のみならず、さらに、聴講中に講演者が言及した話題について、その場でキーワードを検索して深掘りしたいときもある。 インターネット接続は会場のWi-Fiを使ってもいいが、ノートPC内蔵のWANによる接続を使うことがほとんどだ。会場ごとに異なるWi-FiのSSIDを探してパスワードを入れるよりも、開けばすでにつながっている方が便利だ。 こういう使い方をすると、ノートPCのバッテリは手元の実機でだいたい1時間あたり20%弱を消費する。絶対量としては8Whくらいだろうか。5~6時間はバッテリ運用ができることが期待できる。実際には残りが10%を切ったら、不安になってシャットダウンしてしまうだろうから、正味90%を工夫して使うことになる。 この値、カタログスペックの半分以下で話半分よりさらに低い値だが、経験上、どんなPCでもだいたいそんな感じだ。内蔵バッテリ容量の大きなPCは重いけれどバッテリでの稼働時間は長い。それだけのことだ。 ■ バッテリでバッテリを充電するのは無駄 長丁場をバッテリだけで乗り切るために、今回はモバイルバッテリを持参した。バッテリからバッテリに充電するというのは効率が悪いので、バッテリがなくなってからモバイルバッテリを接続するといったことはしない。満充電状態で持参したノートPCに、最初からモバイルバッテリを接続する。こうすることで、本体内蔵のバッテリを消費せずに、満充電だからそこに充電することもなく、外付けモバイルバッテリからの給電を無駄なく使ってノートPCを駆動できる。 「Shargeek 170 Power Bank」の容量は86.4Whだ。電流表記すると24,000mAhとなる。 USB Type-Cポートが2つ、USB Type-Aポートが1つ装備され、USB Type-Cポートは単ポート利用時に170Wの出力ができる。USB Type-C 2ポートを同時に使う場合は片方が100W、もう片方が65Wになる。一般のモバイルノートPCを充電するには十分に大きな電力だ。何なら2台のノートPCでも大丈夫だ。 このバッテリをノートPCに接続してずっと使い続けたわけだが、本体内蔵バッテリはずっと100%をキープした。外付けモバイルバッテリの電力だけで駆動をまかなったことになる。次の予定のために16時頃にセミナーを途中抜けしたが、朝から昼休みも含めて約6時間駆動できたということだ。しかも、撤収時点で25%ほどの残量があった。本体内蔵バッテリだけでは無理だったことを数字が証明している。 この製品は、単ポート出力時に170Wの出力ができる。それほど大きな電力を必要とするノートPCは所有していないので、個人的にはオーバースペックだ。モバイルバッテリは30W程度の出力のものが多く、大きい場合でも60W程度だろうか。 しかも、このバッテリは、充電するときの電力も大きい。実に140Wで充電(入力)できるのだ。つまり短時間でフル充電状態に復帰する。 これまで同じような使い方をするために愛用してきたのはオウルテックの製品「OWL-LPB20015-BK」で、容量は72Wh(20,000mAh)だ。この製品は60Wの出力ができた。Shargeek 170 Power Bankよりも容量は小さいが、一般的なノートPCなら60Wで十分だし、何といっても350gという軽さは魅力だ。MOTTERUからも同等スペックの製品が出ている(MOT-MB20001)。これらの製品はPPSにも対応している。 一方、Shargeek 170 Power Bankは、容量が1.2倍あるとはいえ重量は2倍の680gだ。ヘビーなボディは持ち歩きにもちょっと躊躇するかもしれない。 その代わりといっては何だが、充電時の対応電力が140Wある。30W対応に比べて5倍近い電力だ。実際に試してみたところ、空っぽの状態から約70分でフル充電できた。オウルテック/MOTTERUの製品の充電仕様は30W対応で、フル充電には3時間以上を要する。 充電プロセスを観察していると、0%から25%まで充電するときの供給電力は130W超えで約10分しかかかっていない。30%を超えると電力が70W程度に落ち、50%充電できるまでに25分かかった。本体の熱などと照らし合わせながら受け入れる電力を調整しているようだ。ケーブルを抜いて充電を休止し、少し待って再開すると、また大きな電力に復帰したりもするようだ。残り容量が99%に達したときには15Wしか供給していなかった。そこから100%までが長いのだ。99%でいいと割り切れば、そこまで1時間かからない。 Shargeek 170 Power Bankは、これらの状況をレポートするモニタディスプレイが装備されている。それを見れば、満充電までの予想時間、残り容量、出力中電力、入力中電力がはっきりと分かる。 USB Power Deliveryでの充電には両端USB Type-Cのケーブルが必要だ。一般的なケーブルは60Wまでの対応で、他に100W対応、240W対応のケーブルがある。製品には240W対応のケーブルが1本付属する。自分でケーブルを用意する場合は対応電力に留意しよう。 また充電に使うアダプタも大きな電力に対応するものを使うことで、製品の能力を最大限に発揮できる。今回の評価では、Belkinの「BoostCharge Pro 4ポートGaN 充電器 140W」とAppleの「140W USB-C電源アダプタ」を使った。 ■ 出力と入力の対応電力の違いを確認しよう Shargeek 170 Power Bankは800回以上の充放電でも80%の能力をキープするという。パススルーチャージに対応しているし、複数ポートを使っているときに、片方のケーブルを抜き差ししても、もう片方のポートが瞬間的に停電にならないのもうれしい。また、防塵防水処理もIP66だ。 出力時はUSB Power Deliveryという規格に準拠して大きな電力を供給するし、入力時(充電時)には、USB PDのシンクとしてソースに対してきめ細かな電力要求をして、バッテリの劣化を回避している様子も見て取れる。大きな電力を扱うだけに、このあたりを丁寧に制御しているところは評価に値する。 USB Power Derlivery対応モバイルバッテリの能力を知るために必要な要素は、規格としてのUSB PD EPR(Extended Power Range)と呼ばれる大電力への対応でまた増えた。60W未満、60~100W、240Wと、ケーブル選びにも、電源アダプタ選びにも、そしてモバイルバッテリ選びにも重要な要素となる。 特に、モバイルバッテリは入出力双方の能力を気にする時代になった。多くの場合、入力と出力の対応電力は異なる。猫に小判、つまり充電する機材に対してオーバースペックにならないように、手持ちの機器についての情報も必要だ。 寝ている時間に充電すればいいと割り切れば、要する時間が1時間でも3時間でも使い勝手は変わらないだろう。でも、昼休みの1時間で絶対にフル充電したいという用途が明確にあるなら、大きな電力での充電に対応している必要がある。あとは重量や体積、形状とのバランスもポイントだ。Shargeek 170 Power Bankを見ると、標準規格準拠と安全の確保はそれなりに大変だということが想像できる。
PC Watch,山田 祥平