【日本のローカルトレジャーを探す旅】晩秋の琵琶湖で古き良き佇まいの美食の宿へ
国内最大の湖、琵琶湖を有する滋賀県。湖で育まれた美食と八幡堀に面した水辺の風情を愉しむ宿で、水の恵みがもたらすローカルトレジャーを満喫。 【写真】旅籠 八(わかつ)の古き良き雰囲気
《STAY》「旅籠 八(わかつ)」 “豊かさ”の源流を体感する料理宿
豊臣秀次が築城した八幡山城。その周囲に巡らせたお堀と琵琶湖を繋ぐことで多彩な“物と人と文化”をのせた舟が行き交い、城下町として繁栄を極めた近江八幡。近江商人発祥の地としても、歴史の賑わいを見つめてきた。 1829年に畳屋として財をなした旧喜多邸も、この地の栄華を語る建物のひとつ。そんな古き良き佇まいを随所に残しながら、今様の美意識を注ぎ込み“本物の自然”と繋がる2室限りの宿「旅籠 八(わかつ)」が2020年に誕生した。 街道沿いにもかつての玄関が設えられてはいるが、「宿泊客があたかも舟で訪れたかのように」という心にくい演出から、八幡堀の小径に沿った入り口を正面玄関としている。お堀端から眺めると木造二階建ての建物が荘厳に感じられ、心地よい緊張感を感じながら石段をのぼると、仄暗い潜戸で狛犬に迎えられ、異次元を訪れる感覚に包まれる。
宿の部屋は「木」と「石」というテーマを冠し、2室が完全に独立した建物に位置する。2階家の離れ「木の間」は、京都の数寄屋大工の手で改修。階段下のガラス張りのショーケースには、この建物が畳屋だった歴史を物語る井草と日本人の食の源流である米が据えられ、心に優しい光が灯る。 入り口から続きの間となる部屋は、あえて床を掘り下げて八幡堀の水音を間近に感じられる設計に。部屋名を象徴する木の風呂は、醤油樽を手がける職人による別注。清雅な高野槙の香りに包まれる桶風呂に身を沈めると、穏やかな安らぎに満たされる。
「木の間」の興味深いところは、朝食の間となる2階へ続く階段に鍵がかけられ、翌朝まで上がることができないことだ。自由を奪われると余計に気になってしまうカリギュラ効果のせいか、朝食を迎える喜びはひとしおだ。
一方、特別室「石の間」は、建物が生まれた江戸期の梁や瓦がアクセントとなり、モダンな気配を放つ空間へと昇華されている。 この部屋の魅力は、なんと言っても鞍馬石の岩風呂だ。希少な鞍馬石の巨石を京都から運び、石そのものを彫り込んだ比類なき湯船を土間に据えた。地球の鼓動を感じながら湯に浸かると、人と自然とが共生していた太古の豊かさへと意識が向かうようだ。 翌朝はあえて窓のない隠れ茶室「紙の間」で朝食をいただく。感性がクリアに研ぎ澄まされたことで、外の世界と遮断された茶室の空間で一煎のお茶と梅干しから始まる朝食を味わうと、飾り気のない自分の原点と向き合うような感覚に包まれる。