「子どもが気を遣うように」シングルマザー家庭が抱える”体験格差”のリアル…離婚前後で大きく変わったことは
「子どもにはできる限り色々な『体験』をさせてあげたい」そう考える親御さんは多いと思います。 でも、家庭の事情や収入の問題などで、それが出来ない家庭も存在します。 そんな「体験格差」が、現代社会の新しい課題としていま注目を浴びています。 「突然正座になって、泣きながら『サッカーがしたいです』と…」シングルマザーが痛感した“子どもの体験格差”の厳しい現実 そこで今回は、今井悠介さんの著書『体験格差』から“事例:障害のある子を育てる”というトピックスをご紹介。 障害を抱える子どもや、大人の人数に対して子どもの人数が多くなる多子世帯、また外国にルーツを持つ親子など、この社会の中でマイノリティとされてしまう家庭における「体験格差」に焦点を当てたいと思います。
事例:障害のある子を育てる
【鎌田(かまた) かおりさん 長男(中学生)・次男(小学生)】 鎌田かおりさんは障害のある子どもを育てている。長男には発達障害(自閉スペクトラム症)がある。 ―離婚される前と後とで変わったことはありますか。 休日はすごく変わったと思います。週に1回でもお出かけしたりとか、彼がおうちで子どもを見てる間に買い物をパッとしてくるとかもありました。日曜日にドライブで遠くまで行ったり、外でご飯を食べたりもよくしていました。近場じゃない大きな公園に行ったり。 今は何かがないと基本的に連れていかないですね。誕生日は「好きなところにご飯食べに行っていいよ」と言っていて、「回転寿司に行きたい」って言ったら「じゃあ行こう」って。子どもたちの中で昔との違いに思う部分はあると思うんですけど、「なんで行けないの」というふうに言わないのは、私にとっては結構救いではあります。 土日は子ども食堂をやっている居場所があって、子どもたちはそこに朝から行っていますね。車で連れていって、夕方に迎えに行きます。前は365日ずっと一緒だったんですけど、今はこの時間は私一人の時間になっているので、ちょっと気が抜けます。洗濯をしたり、夕飯の準備をしたり。 ―鎌田さんが子どもの頃はスポーツや習い事などをしていましたか。 全然ないです。うちも母子家庭だったんです。お父さんは知ってるんですけど、たまーに遊びに来る人っていう感じで。 母がほぼ休みなくずっと働いていたので、私はほとんど母方の祖父母のうちに預けられて育ちました。子ども心にうちって貧乏だなと思っていて。母がそんだけ働かないと生活していけないのか、みたいな。授業参観とかもほぼ来たことがなかったです。 母がうちにいるのは、数年に一回熱を出して寝込むというか、体調が悪いときだけでした。だから、そういうときって母が死んじゃうんじゃないかって思っていました。 月に1回、母と姉と3人で外食する日というのがあって、それにいつも抵抗していた記憶がすごくあります。「みんなで行こうよ」って言われても行かない。私はおうちにあるものを食べて。ちょっとでもお金を使わないほうがいいんじゃないかって、心配してたんですね。 私がある程度大きくなったときに、なんだったかな、母に対して塾だったか習い事だったかに「行ってみたかったんだよね」という話をしたことがありました。そしたら、「そのときに言ったら良かったのに、行かせたのに」と言われて、「私、あのとき一人で一生懸命に何をやってたんだろう」と思って。 だから、今は私の子どもたちがそういうふうに思ってないかなと、考えるところもあります。なるべくやりたいことはさせてあげたいです。下の子が「漢検を受けたい」って言ってプリントを持ってきたので、「受けな、受けな」って言って、1000円を渡して。 サッカーも本当はやらせてあげたかったんですけど、もう言わなくなってしまいました。 ……一口に「障害」と言っても、その特性や程度は様々ですが、「体験」の機会という意味では、やはり選択肢そのものが少なくなりがちです。 次回は、選択肢が狭まっていく要因についてご紹介します。
〈著者プロフィール〉今井 悠介
公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表理事。1986年生まれ。兵庫県出身。小学生のときに阪神・淡路大震災を経験。学生時代、NPO法人ブレーンヒューマニティーで不登校の子どもの支援や体験活動に携わる。公文教育研究会を経て、東日本大震災を契機に2011年チャンス・フォー・チルドレン設立。6000人以上の生活困窮家庭の子どもの学びを支援。2021年より体験格差解消を目指し「子どもの体験奨学金事業」を立ち上げ、全国展開。本書が初の単著となる。