観光立国モルディブ、「リゾートの連携」をサステナビリティ推進の力に
モルディブ最大の温室で野菜を自給
モルディブは砂地のため野菜の栽培に適さず、多くの野菜を輸入に頼っているが、2021年にオープンしたルメリディアン モルディブ リゾート&スパ内には大きな温室があり、水耕栽培で野菜を栽培。水は海水を濾過したものを使い、レタスやきゅうり、ハーブなどは100%が自給、収穫が多い時は近隣のマリオットのリゾートに野菜などを供給している。 それらの野菜を主役に、一日一席だけの特別な食事体験「ハーベスト・テーブル」も展開し、まさに新鮮な野菜をリゾートの魅力の一つとして打ち出している。この特別な食体験の場所は、ガーデンの横にある東屋。ピンクのハート型の花が連なって咲く「愛の鎖」と呼ばれる花が咲き誇り、ロマンティックなディナーが楽しめる。 環境先進国でもあるドイツ出身のトーマス・シュルトGMによると、今後、アメリカ合衆国国際開発庁の支援を得て、近隣の島にも水耕栽培の温室を建設することも考えている。 「野菜を輸入しなくてすむというのは、フードマイレージに加え、運ぶ際に使われるパッケージに使われるプラスティックの削減にもつながる。また、水耕栽培の温室はランドリー施設などに比べるとシンプルな作りで、比較的楽に施設を増やすことが可能で、地域に産業を生み出すことにもつながる」とGM。近々、この近辺がモルディブの野菜の一大供給地となるかもしれない。 また、モルディブは開発が進み、石や砂を運び込んで、周辺に珊瑚を植えるなどしてつくる“人工の島”が増えているが、ル・メリディアンは、最近オープンしたリゾートとしては珍しい天然の島だ。その周囲は、素晴らしく多様な生物多様性に恵まれている。 シーグラスと呼ばれる海藻が生える平原や巨大な珊瑚が織りなす山々、海中にも、陸上と同じような豊かな地形があり、豊穣な世界が広がっていることに気づかされる。ボートで沖に行けば人懐っこいイルカがおり、筆者も数時間シュノーケリングしただけで、巨大なエイ、ウミガメ2匹、数限りない魚と出会えた。 美しい海に恵まれ、観光産業が国の収入の2割を占めるモルディブ。モルディブ政府も、去年発表した第5次モルディブ観光マスタープランで、持続可能な観光を目指すとともに、2022年には35億ドルだった年間観光収入を、2027年までに60億ドルに引き上げることを目標としている。 サステナブルツーリズムの実現に向けて、各リゾートがそれぞれに工夫をこらし、モルディブ・サステナブル協議会として共有するシステムは、きっと大きな力となることだろう。
仲山 今日子