観光立国モルディブ、「リゾートの連携」をサステナビリティ推進の力に
失われつつある伝統の漆芸を伝承する
2018年に、世界自然遺産であるバー・アトールの豊かな自然の中にオープンしたザ ウェスティン モルディブ ミリアンドゥ リゾートは、建物自体に電気の使用を抑える仕掛けがある。屋根が二重構造になっており、断熱効果で、電気の使用を30%抑えることができる。また、レストランは基本的にオープンエアでエアコンを使っていない。 ここの特徴は、リゾートとして漆芸体験教室などを行い、地域社会とのつながりを持ち、その文化の保全に力を注いでいることだ。 ウェスティンからイルカが遊ぶ海をボートで30分。人口3000人ほどの島、テュラドゥは漆芸の島としても知られ、一説によると300年前から漆芸が行われている。漆はインドやバングラデシュからのものが使われているが、その技法は島で独自に発達した。 マティーン・イスマイルさんは、その伝統技法の継承者の一人で、毎週金曜日にウェスティンを訪れては、デモンストレーションと販売を行っている。その手法は、今もモーターを使わず、人力で動く足踏み式のろくろのような機械を使って木を削り出し、色粉を混ぜたクレヨン状の漆を削り出した生地に塗り、椰子の葉で磨くという工程をとる。一つのお椀を作るのに3~4時間ほどかかる、地道な手仕事だ。 材料となる木は島に生えているシートランペットツリーという木が主で、以前は自分たちで木を切ってきたが、最近はリゾート開発で多く伐採されるため、イスマイルさんは、本来は捨てられてしまうそれらの木材を使用する。とはいえ、手間がかかるこの伝統を「サステナブル」にするのには苦労もある。 「世界各地で起きているように、島でも若者はスマホに夢中で、伝統的な手仕事に興味を示さなくなってしまった」というのが現実で、島では近年、わずか10人ほどの職人が細々と作っているだけになってしまったのだという。 イスマイルさんはそんな現状を変えたいと、ドイツでの産業フェアなどに出展。また、リゾートでのイベントを行うことで、漆の手仕事の認知の向上にも繋がり、最近、島の若者2人が修業を始めたのだ、と嬉しそうに話していた。地元の人々を採用するだけでなく、深く地域と繋がり、いかにその土地の文化を尊重して支え、共に成長してゆくかの好例ということができるだろう。