船もEVシフト。中国発の電動船外機が欧州市場で台頭、ホンダ・ヤマハに挑む
新エネルギーの船舶駆動システムの開発を手がける中国スタートアップ「逸動科技(ePropulsion Technology)」は、多様な製品ラインとブランディング戦略によって、欧州市場で電動船外機の出荷台数が第2位になり、「EV船舶の先駆者」となっている。 電動船外機「eLite」などの写真をもっと見る 2012年に設立された逸動科技は、香港科学技術大学(HKUST)の著名研究者の李澤湘教授の研究室から生まれた。広東省東莞市松山湖に本社と自社工場を設け、電動船外機の研究開発に注力している。電動の船外機や船内機、ポッドドライブといった製品を数キロワット(kW)単位の出力で展開し、効率の高さや環境への優しさ、騒音の少なさ、スマート化といった特長でユーザーに支持されている。 欧州市場では電動船の需要が急速に高まり、供給も大きく伸びている。2024年電動船市場リポートによると、22年の販売台数は19年比で2.6倍に、23年は2.9倍に増加した。 ガソリンやディーゼル燃料を動力源とする従来の船外機は出力や航続距離に優れ、長距離航行や重量物輸送に適しており、日本のホンダやヤマハ、米Mercuryなど駆動システム開発の大手企業が手がけてきた。 しかし、電動船外機の普及に伴って、逸動科技に代表される新興メーカーが欧州市場に参入し始め、一般ユーザーの日常使用を想定したさまざまなタイプや仕様の製品を発売している。 例えば、逸動科技が開発した長距離航行・重量物輸送向け船外機「Xシリーズ」は、出力12~40kWで、高頻度の輸送に適した馬力と耐久性を備えている。また「eLite」「Spirit」「Navy」は主にプレジャーボート用で、馬力は小さいが軽いため、持ち運びや取り付けが簡単だ。 さらに二酸化炭素を排出せず静かで、カスタマイズ可能な機能なども一定のユーザーに支持されている。例えば、船上インターネット機能を使えば、リモートで船舶の使用状況や船外機バッテリーの状態、船外機の故障診断・リポートを確認できるほか、船舶の盗難防止用電子フェンスを設置できる。 欧州ではプレジャーボートが普及しており、船外機は取り外して持ち運びされることが多い。その際にユーザーが手を滑らせて、バッテリーを水中に落とす可能性もある。これに対応するため、出力1kWの「Spirit」は防水フローティング設計を採用、水中に落ちたバッテリーは水面に浮かび、拾い上げてそのまま使用できる。 逸動科技は、販売店や代理店といった実店舗を中心に製品の販売ネットワークを構築しており、オンラインでブランド力の向上を図っている。すでにフランスと英国にオフィスを設け、現地市場の開拓や大口顧客の獲得、サービスの提供を進めている。 また、中国の新興企業としてブランド認知度を高めるため、SailGP(国際セーリンググランプリ)やアメリカズカップといったヨットレースのスポンサーとなり、レース支援艇などに電動船外機とバッテリーを提供している。こうしたイベントは、製品の露出を高めるだけでなく、信頼性と市場競争力を検証する大切な機会になっている。 同社の売上高のうち欧州事業の売上高が50%以上を占め、欧州市場で電動船外機の出荷台数は第2位となっている。2024年1~6月の出荷台数は1万台近くに上った。 今後は中・大型の遊覧船や商船(旅客船・貨物船・作業船)、漁船向けに10~250kWの電動船内機と独自開発のバッテリーをリリースし、電気やハイブリッドなどの駆動システムソリューションを提供することで、さまざまな顧客のニーズに対応していく方針だ。 共同創業者の陶師正CEOは「電動船業界が急成長期を迎える中、当社は市場シェアの拡大を進め、欧州だけでなくグローバルな影響力を持つブランドに育てたい」と話した。