マダニ感染症 西日本から拡大
秋は山菜取りやキノコ狩りなどのシーズン。野外の活動ではマダニに咬まれないよう、注意が必要だ。マダニは「重症熱性血小板減少症候群」 (SFTS)という感染症のウイルスをもっており、9月3日現在、西日本を中心に13県で40人が感染し17人が死亡している。さらに国立感染症研究所の調査で、これまで患者の発生報告がなかった近畿、中部地方でもウイルス保有のマダニが見つかっており、予想以上にウイルスが広いエリアに分布していることが明らかになったのだ。 マダニは、屋内にいるダニ(コナダニ類、チリダニ類など)とは異なり、森林や草むら、市街地周辺などの野外で見られ、春から秋にかけて活動する。日本国内には47種のマダニが生息するとされるが、これまで同症候群のウイルスをもつマダニの種類や生息域、動物との関係などは不明だった。 そのため同研究所などが、(1)マダニからウイルスの遺伝子を検出する方法、(2)動物の血中からウイルス感染によってできた抗体を測定する方法、を開発し、これまでに各地で入手できたマダニや動物(シカ、イノシシ、猟犬)の血液などを調べた。 これまでに患者の発生が報告されているのは、以下の13県だった。 ・九州地方:佐賀 長崎 熊本 宮崎 鹿児島 ・中国地方:島根 山口 広島 岡山 ・四国地方:徳島 愛媛 高知 ・近畿地方:兵庫 今回の調査では、中国、四国、近畿、中部地方で採取したマダニ11種のうち5種(フタトゲチマダニ、ヒゲナガチマダニ、オオトゲチマダニ、キチマダニ、タカサゴキララマダニ)からウイルス遺伝子を検出。これら感染症を引き起こす可能性のある「ウイルス保有のマダニ」は、以下の地域で発生報告があった。 ・中国地方:島根 山口、 ・四国地方:徳島 高知 ・近畿地方:兵庫 和歌山 ・中部地方:福井 山梨 静岡 ※和歌山、福井、山梨、静岡ではこれまで患者の発生報告なし また、患者の発生がなかった県で動物のウイルス感染が分かったのは、以下のとおり。 ・シカでの感染:福岡 和歌山 長野 ・イノシシでの感染:香川 ・猟犬での感染:香川、三重、富山、岐阜 ※猟犬については広島、長崎、新潟、長野、静岡、愛知、滋賀、沖縄の8県で感染はなかった。 なお、動物は同症候群のウイルスに感染しても症状は出ない。またこれまで、動物の血液などを介してヒトが感染した報告もないという。 同研究所は、今回の調査結果について「全国や各地域の実態を反映したものではなく、暫定的なものだ」と述べ、さらに対象地域や動物の種類、数などを増やして引き続き調査する。 《重症熱性血小板減少症候群(SFTS)》 2009 年に中国中央部の山岳地域で原因不明の疾患が集団発生し、11年に新しいウイルスによるマダニ媒介の感染症と特定された。日本では13年1月に、初めての患者(前年秋に死亡)が確認された。過去にさかのぼって調査した結果、05-12年の間に国内でさらに10人がかかっていたことが分かった。その後も西日本の各地で、患者の発生が報告されている。患者から検出されたSFTSウイルスは、中国のものと遺伝的構造がわずかに異なり、以前から日本国内に存在していたとみられている。 主な症状は発熱や吐き気、下痢、白血球や血小板の減少など。重症化して死亡することもある。有効な薬やワクチンはなく、治療は対症的な方法しかない。マダニが生息するような場所では長袖、長ズボン、足を完全に覆う靴をはき、肌の露出を少なくすることが必要だという。 (文責/企画NONO)