中国観光客取り込みに躍起の東南アジア コロナで打撃、ビザ免除や犯罪対策アピール
新型コロナウイルス禍で観光産業に大打撃を受けた東南アジア各国が、世界最大の外国旅行支出をする中国人観光客を引きつけようと躍起だ。3カ国がビザ免除に踏み切ったほか、各国は越境犯罪など安全面を懸念する中国人客の不安解消に取り組んでいる。(共同通信=角田隆一、伊藤元輝、松下圭吾) ▽回復鈍くコロナ前に届かず 「ビザがいらないから来た。中国人がビザなしで旅行できる国は少ないからうれしい」。シンガポールの金融街近くで写真を撮っていた魯佳さん(28)は上海から3泊4日で母親と訪れた。製薬企業勤務。コロナ禍前に日本も旅行した。「物価はシンガポールと上海が同じくらい。東京の方が安いと思った」 ただ東南アジア全体の観光客の戻りは鈍い。2019年に東南アジア諸国連合(ASEAN)全体の旅客数は約1億4300万人だったが、コロナ禍で2021年に約290万人に激減。2023年上半期は約4650万人に回復したが、通年では2019年の水準に届かない見通しだ。
課題は、コロナ禍前、外国旅行に世界最多の1億5500万人が出かけ世界最大の2550億ドル(約39兆円)を費やした中国人の取り込みだ。昨秋以降マレーシアとシンガポール、タイが相次いで中国人のビザを免除したのはこのためだ。 ▽事件多発、中国人も被害 タイのセター首相は今年1月下旬、中国の春節(旧正月)に合わせ「中国とタイの間に距離は感じない。われわれは同志だ」とソーシャルメディアに投稿し、中国人観光客による経済活性化に期待を示した。 今年3月時点で、中国のパスポートでビザなし渡航が可能な国は88カ国と、194カ国の日本より大幅に下回る。中央アジアや中東、アフリカの友好国が中心で近隣の人気旅行先はなく「(免除した国で)今後、個人旅行がどんどん増える」(シンガポールの公認ガイド)とみられている。 ただ東南アジアでは越境犯罪が深刻化。国連はカンボジアで10万人、ミャンマーで12万人が違法集団によりオンライン詐欺などに強制的に従事させられていると推計し、タイやラオス、フィリピンも集積地と名指しした。中国人が巻き込まれるケースも後を絶たず渡航をためらう声が根強い。
ASEANで経済の観光依存度が最も高いカンボジア。訪問者の国籍別で2019年に3割超を中国が占めていた。しかし特に中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」で潤った南部シアヌークビルではコロナ禍で景気が悪化、犯罪集団の根城と化し、高収入に誘われて渡航した中国人や日本人が詐欺などに巻き込まれる事件が多発している。 信頼回復は急務で、フン・マネット首相は2月「国の名誉に関わる」と述べ、対策強化を約束した。