ソフトバンク子会社「Gen-AX」設立の狙い 「AIによる業務変革」はどこまで進むか?
米国のITジャイアントが、生成AI開発に躍起だ。日本企業もNTTグループやNEC、日立製作所に富士通などさまざまな企業が開発を進めている。 【写真を見る】砂金信一郎社長の経歴と写真 ソフトバンクも生成AI関連の事業をさまざまに展開している。同社のグループ企業には、生成AI開発に注力する企業として、SB IntuitionsとGen-AX(ジェナックス)がある。SB Intuitionsは生成AIの研究開発を担い、Gen-AXは生成AIのSaaSによる開発・運用とコンサル事業を手掛けている。Gen-AXの砂金信一郎社長に、設立の経緯や狙いを聞いた。
SaaSとコンサル 「2本柱」の理由とは?
――Gen-AXは2023年7月に準備会社として設立し、2024年6月に現社名に変更。7月から本格的に事業を開始しています。設立の経緯を教えてください。 ChatGPTに代表されるように、2023年からGAFAをはじめとする米大手の生成AI開発が進みました。こうした動きを受けて、ソフトバンクでも生成AIの研究開発が一気に動き出しました。日本に限らず、生成AIの研究開発は先行投資がものをいう側面があって、GPUや人件費にいかに資金を注ぎ込んだかの競争になっています。 GAFAをはじめ、各社が莫大なコストを払って生成AIの研究開発を進めているわけですが、それをいかにしてビジネスとして事業化させるかの部分は、後から考えるところが大きいのが現状です。なぜそうなっているかというと、最初から収益化を見通した上で投資をしようと考えていると、出遅れるからです。 こうした世界的な生成AI研究開発の現状を踏まえて、ソフトバンクでは研究開発を主に進める部隊と、それをどうやってビジネスにするかを考える部隊に分かれています。現状では、前者がSB Intuitionsで、この会社は日本語に特化した国産LLM(大規模言語モデル)の研究開発を進めています。SB Intuitionsの役割は、生成AIの事業を作ることよりは、いかに性能の高い日本語LLMを開発するかに重点を置いています。 ――一方、Gen-AXのミッションはどのようなものでしょうか。 Gen-AXでは、SB Intuitionsが研究開発を進めるLLMや、既存のLLMを上手に活用し、いかにして事業化するかを検討することに重点を置いています。例えば、生成AIはコールセンター業務との相性が非常に良いという仮説から商機になると考え、そこに特化した生成AIの研究開発を進めています。このような点でSB Intuitionsとは役割が異なります。 もちろん将来的には、同じソフトバンクのグループとして、SB Intuitionsが研究開発した日本語LLMをGen-AXが活用し、サービスとして展開する役割も考えられます。基本的な考え方としては、既存の製品も含め、それぞれのLLMの強みを踏まえて選択的に使っていく形になると思います。 当社では、今のところ米Microsoft(マイクロソフト)のAzure OpenAI ServiceのGPTシリーズを中心に使っています。現状では既存の生成AIの技術を使って、SaaSのビジネスアプリケーションとしてきちんと作り上げて、顧客の課題解決をする業務を主に展開しています。 Gen-AXという社名は「ジェネレーティブAIで、DXのようにトランスフォーメーションするAX(AIトランスフォーメーション)を実現する」というわれわれのミッションから命名しています。それをB2B向けのSaaSとコンサルティングによって実現するのが、当社の役割だと捉えています。 つまり「生成AIで何か事業化できそうだ」程度のところから「このパターンやこのモデルをこの業界向けに展開していけば収益性の高い事業にできますよ」ということを提案していくのが、われわれの役割になります。 ――Gen-AXは生成AIを使い、どんな事業を展開しているのでしょうか。 生成AIを始めとした、コールセンターなどユーザーからの問い合わせ業務の自動化を、B2B2C的な展開を目指して、プロダクトを開発しています。これは、生成AIによって担当者の時間が1時間減る程度の業務効率化を目指すものではなく、問い合わせ業務なら、その業務の在り方そのものを変えてしまうほどの効率化を目指すものです。 例えばコールセンター業務で言えば、この業務内容をいくつかの領域で細分化し、コールセンターの在り方や、照会応答業務を定義していきます。そしてどの部分が生成AIで最も効率化できそうかを検討した上で、そこに向けたSaaSのビジネスアプリケーションを開発し、提供していくことが当社の業務になります。 こうした業務効率化自体は、ソフトバンクのコールセンター業務をはじめ、金融機関などさまざまな分野で取り組みが進められています。 ――SaaSとコンサル業の2つに焦点化した理由は。 OpenAIのようなリーディングカンパニーであれば違う戦略を取れるのかもしれません。しかし、例えばわれわれが基盤モデルを作って、そのAPIを(機械学習アプリを作成するためのツールを開発している)米Hugging Faceや、Googleと一緒になって事業化していけるかというと、なかなか現実的ではないと思います。OpenAIやGoogleといった企業が先行している中にあっては、価格決定権がわれわれにないからです。 そうなると、単に基盤モデルそのものを展開していくより、それをきちんと応用してビジネスとして成立させられる状態じゃないと、顧客から一定の評価を得て対価をいただくのは難しいというのがわれわれの見解です。もしかすると、基盤モデルだけを突き詰めたらそれだけで事業化できる企業も世の中にあるのかもしれません。しかし、われわれはまだそういう道筋を見つけられていません。 ――SaaSとコンサル業を同時に展開することで、相乗効果が生まれるのでしょうか。 もちろんです。コンサルにおいては、顧客がどの領域から生成AIを使って付加価値を生み出し、業務効率化をしていくべきか、大手コンサルファームを入れて検討している企業が多くいます。ただ、そういった老舗コンサルファームであっても、AIに詳しいコンサルタントが社内にいるかというと、数に限りがあるのが現状です。 こうした場合に、われわれはコンサルの助言役として入っていくことを業務の一つにしています。そこで、その企業がどのように生成AIで業務効率化していけるかの、ロードマップ策定を支援する事例が多いですね。 SaaSの提供においては、その顧客の生成AIロードマップをもとに、大規模言語モデル運用(LLMOps)に基づいた、そのモデル自体を使っていく中で徐々に賢くしていく仕掛けや、業務理解の度合いが深まる設計を内包させています。ただ単にChatGPT-4oなどの既製品をそのまま埋め込んで使う形ではなく、顧客のロードマップに応じて生成AI自体の学習の仕方も変えていきますので、学習データの確保がすごく大事になってきます。 こうした生成AIが学習すべきデータは、顧客企業内で整理された状態で存在するとは限りません。どこにあるのかも分かっていないケースもあります。こうした時にわれわれは、どこに学習に使えそうなデータがあるのかを特定し、そのデータをAIが学習しやすい形になるように、データ形式を整えていく作業まで請け負っています。 このように、コンサル業に入って企業の生成AI活用のロードマップ策定と、実際にSaaSのプロダクト開発業務の両方を担当することで、大きな相乗効果を得られます。