まさかコレで訴えられるとは! 後輩へのアドバイス、親切心でも「言ってはいけない」ワケ…思わぬ《パワハラ騒動》に関係者が青ざめた
ルールは時代の流れで変わる
会社はヒアリングの結果を踏まえ、今回の件についてはハラスメント加害としては認定しないことにしました。しかし、加害と感じさせる指導があったことについては反省し、会社としては再発防止策としてガイドラインを策定することにしました。 A井さんはハラスメント相談の担当は引き続き行うこととしましたが、相談員をA井さんの専任とするのではなく、A井さんを含めて「相談委員会」を組織し、相談員は3名配置することになりました。 これにより、相談者は相談しやすい相手を選んで相談することができるようになります。 N坂さんはこの結果に不満があったようですが、ガイドラインの作成委員を公募すると自ら応募してきてくれました。プロジェクトチームは20代から50代まで、役職も様々なメンバーがそろいました。 A井さんのように、後輩社員に「良かれと思って」アドバイスや改善提案をしてくれる先輩は貴重なものです。しかし、そのアドバイスそのものの基準がずれていたとき、それはパワハラやセクハラに変わりかねません。 親切心だからこそ、その言動に歯止めがかからなくなり、時として価値観の押し付けになってしまうこともあります。さらには会社の風紀がそうした先輩社員のマイナールールによって決定付けられてしまうということもあるのです。 じつは、T橋さんの発言において、「A井なら間違いない」という信頼に危険なものを感じたのは、まさにこの理由からです。で私が危険なものを感じたのも、まさにこの理由からです。 だからこそ、明確な「ここからはうちの会社として問題視の対象にする」という線引きを明確にしておくことは重要です。多くの会社が服装規定を就業規則の中に定めていますが、そこに具体的な線引きまであるのは稀です。 定めるからには合理的なものである必要がありますが、その「合理性」の判断が恣意的なものにならないよう、属性の異なる社員の意見を聞きながらルールを作成してラインを明確にしておくことが重要です。 さらに、このルールは時代の流れによって変わります。 A井さんの入職した1990年代と現代では社会のジェンダー意識やコンプライアンスに対する認識も変わり、組織においても対応を求められています。 ハラスメントはその意識のずれから生まれることも多いため、こうしたルールも常にアップデートが必要です。一度作ったから終わりではなく、定期的に見直すことで、組織の健全な風土を守ることができるでしょう。 こうしてこのケースは解決を見ましたが、ハラスメントを防止していくには合理的な社内ルールを作成して周知していくなど、多様な世代や価値観のずれを考慮したコミュニケーションが求められるます。 A井さんのように、世代間の違いから親切心が裏目に出るケースも増えつつあります。現代の職場においては、ルールメイクを通して対話していくことも重要な課題になるのではないでしょうか。 …つづく、村井真子さんの連載<50代の上司が青ざめた…「パワハラの主張」が通らない20代社員が起こした「衝撃のいやがらせ」>でも、実際に起こったハラスメントの実例をもとに解説しています。
村井 真子(社会保険労務士・キャリアコンサルタント/経営学修士(MBA))