ハート型の貝、“光ファイバーケーブル”のような仕組みを搭載していた 米研究者らが発表
米シカゴ大学や米スタンフォード大学などに所属する研究者らが発表した論文「Heart cockle shells transmit sunlight to photosymbiotic algae using bundled fiber optic cables and condensing lenses」は、リュウキュウアオイ(Corculum cardissa)などのハート型の二枚貝が、光合成共生を実現するために独自の光学システムを進化させたことを発見した研究報告である。 【画像を見る】殻における光透過性を示した図【全5枚】 この二枚貝は、殻に透明な窓のような構造を持っている。通常、二枚貝の殻は不透明だが、この貝は殻の表面の約50%が透明な窓になっている。これらの窓は放射状の縞模様や三角形のパターンを形成している。 特に注目したのは、この窓の光学的な性質である。実験の結果、殻の日光が当たる面は、植物の光合成に必要な波長の光を11~62%(平均31%)透過させることが分かった。 一方、生物にとって有害な紫外線は5~28%(平均14%)しか透過させない。この選択的な光の透過は、貝の体内に共生する光合成生物である渦鞭毛藻類(うずべんもうそうるい、Symbiodinium corculorum)を保護するのに役立っている。 さらに、この窓の内部構造は、人工の光ファイバーケーブルに似た仕組みを持っていることが判明した。窓はアラゴナイト(炭酸カルシウムの結晶)の繊維で構成しており、これらの繊維が束になって光を効率的に伝達する。この構造により、識別できるほどの画像を投影できる。 また、殻の窓状構造の下には小さなレンズ状の構造があり、これが光を集束させて貝の軟組織の深部まで届ける働きをしている。このレンズは殻の隆起部より約500~750μm下方の位置で光を集光し、約1mmの焦点深度を持つ。 研究チームは、コンピュータシミュレーションを用いて、この光学システムの構造が光の透過に最適化されていることを確認。アラゴナイトの繊維の大きさや形状、配向は、より多くの光を透過させるように進化したと考えられる。特に、繊維が結晶の最も屈折率の高い軸に沿って配向していることは、光の伝達効率を高めるのに重要な役割を果たしている。 この貝の光学システムは、浅い海に生息する生物がいかにして効率的に光を利用し、同時に有害な紫外線から身を守るかを示す優れた例である。また、この発見は新しい光学技術の開発にもヒントを与える可能性がある。例えば、効率的な光伝達システムや選択的な光フィルターの設計などへの応用が期待される。 Source and Image Credits: McCoy, D.E., Burns, D.H., Klopfer, E. et al. Heart cockle shells transmit sunlight to photosymbiotic algae using bundled fiber optic cables and condensing lenses. Nat Commun 15, 9445(2024). https://doi.org/10.1038/s41467-024-53110-x ※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2
ITmedia NEWS