事業承継はただの「社長交代」ではない…「親族内承継」のメリット・デメリット
「事業承継」は企業の存続と発展において極めて重要な課題です。承継手法が多様化しつつある近年でも、中小企業にとって「親族内承継」が最もポピュラーな方法であることに変わりはありません。経営を未来につないでいくには、自社に最適な事業承継スタイルを検討することが重要です。本稿では、公文拓真氏(株式会社タナベコンサルティング)が「親族内承継のメリット・デメリット」について解説します。
事業承継の潮流
昨今、事業承継の重要性がますます高まっている。少子高齢化と経営環境の激変に伴い、多くの中小企業が後継者不足に悩んでいるためである。特に地方では、地域経済を支える企業が後継者を見つけられずに廃業するケースが増えている。これに対して、政府や各種団体は支援策を講じており、事業承継の円滑化を目指している。例えば、事業承継税制の見直しや、M&Aのマッチングサービスの提供などが行われている。 また、今までの連載で述べたように、事業承継の方法も多様化している。親族内承継は依然として主要な方法だが、親族外承継やM&Aも一般的になってきた。【図表】は事業承継の手法における推移を示している。親族内承継(同族承継)の割合は高位ながら、内部昇格やM&Aといった承継の割合が増加してきており、多様化していることがわかる。 特に、経営資源の有効活用や企業価値の向上を目的としたM&Aが注目されている。これにより、事業の継続性を保ちながら、新たな成長機会を模索する企業が増えている。 しかしながら、依然として親族内承継は中小企業にとって最もポピュラーな承継手法であり、今後も一定の割合を占めると想定される。その中で、近年は後継者の育成が重要視されている。事業承継は単なる役職の引き継ぎではなく、企業文化や経営理念の継承も伴うことから、後継者の早期発見と育成が求められるためだ。外部機関による後継者育成プログラムや研修の提供も進んでいる。
親族内承継のメリット・デメリット
親族内承継とは、企業の後継者を経営者の親族から選定し、事業を引き継ぐ方法である。多くの場合、子どもや兄弟姉妹が後継者として選ばれることが多い。この方法は、日本の家族経営企業において、伝統的かつ一般的な事業承継の手法である。 親族内承継は、家族の絆や信頼関係を活用する点で非常に効果的である。また、企業の経営理念や価値観が自然に受け継がれるため、企業文化の継続が比較的容易である。しかし、親族内で適切な後継者を見つけることが難しい場合や、親族間での意見の対立が生じるリスクも存在する。下記に親族内承継におけるメリット・デメリットをまとめた。なお、デメリットについては承継対象が存在することを前提としている。 <親族内承継のメリット> ●企業文化の継承: ⇒親族内承継では、企業の経営理念や価値観が家族間で受け継がれるため、企業文化をスムーズにバトンタッチできる。これは企業の“一貫性”を保つ上で重要である。 ●信頼関係によるコミュニケーション: ⇒一般的に、親族間の信頼関係は他人とのそれより強固であり、経営者と後継者の間で円滑なコミュニケーションが取れる。これにより、言外の意図も含めた意思の疎通が行われ、承継におけるトラブルが相対的に少ない。 ●コストの削減: ⇒外部からの後継者を採用する場合に比べて、親族内承継は採用コストが低く抑えられる。また、外部の後継者に対する高額な報酬も不要である。 ●事業承継税制の活用: ⇒一定の条件を満たすことで事業承継の際にかかる税金を猶予・免除することが可能になる優遇措置(事業承継税制)が用意されている。この優遇措置により、承継時の資本移動による税負担を軽減できる。 <親族内承継のデメリット> ●後継者の適性: ⇒親族内で適切な後継者を見つけることが難しい場合がある。後継者が経営に対する適性や意欲を持っていない場合、企業の将来に悪影響を及ぼす可能性がある。これは最も多く存在するネックであり、後継者の育成には早期から取り組んでいく必要がある。 ●意見の対立: ⇒親族間で経営方針や役割分担に関して意見が対立することがある。これにより、企業内の人間関係が悪化し、経営に支障をきたすリスクがある。特に後継者候補となる親族が複数存在する場合には親族間トラブルが起こる可能性がある。 ●税務上の課題: ⇒仮に何らかの税務対策を講じない場合、親族内承継に伴う相続税や贈与税の負担が大きくなる場合がある。これにより後継者が承継を拒む可能性が生じるなど、事業承継の円滑な実施が難しくなることが想定される。