祝!ベイスターズ日本一。「もののけ」をスタジアムに呼び込んだささやかな執念
シーズン最後の試合は現地で見たい
ベイスターズがCSに初めて出場したのは2016年のことだった。そのころ私は小説を書きながら会社勤めをしていたから、3戦目の月曜日には仕事があった。それでもこんなことはもう二度とないかもしれないからと、仕事のお休みとチケットを取ったところ、2位のジャイアンツに勝ってしまった。首位だったカープとの戦いも、せっかくだからとチケットとその日の休みを取った。見に行った試合は負ければもう終わりの状態になっていたファイナルステージ第3戦。ベイスターズは底力を見せてカープに完封リレーで勝利した。翌日の先発は2015年のドラフト1位ルーキー、今永昇太投手。私は、当時住んでいた横浜の自宅でこの試合を見ていた。初回に6失点を喫し、打線が猛烈な追い上げを見せるも7対8の1点差で敗戦、カープがCSの勝者となった。 ベンチに下げられた今永投手が泣いている姿を端末の画面で見ながら「シーズンの最後は現地で観戦がしたかったな」と思っていた。 * 2017年、横浜から東京に引っ越した。横浜スタジアムは遠くなったけれど、tvkを見ることができる家だったので、シーズン中はテレビでベイスターズの試合を見ていたのを覚えている。この前年に「太陽の側の島」という短編で林芙美子文学賞をいただいていて、その縁で『小説トリッパー』に載せるちょっと長めの小説を年の瀬にあわせて送ってください、ということだったので、うんうん唸って書いていたころだった。この時期、ベイスターズはジャイアンツの猛追をなんとかかわし、3位でCSに出場する権利を得ていた。2位タイガースとの試合が行われる甲子園は天気に恵まれず、3戦目はそのせいで1日延期され、阪神園芸の懸命な整備があってどうにか試合が行われた。私は「シーズン最後の試合は現地で見たかった」という心残りを払拭するために、甲子園のレフトスタンドにいた。 ところが、ベイスターズは勝ってしまった。タイガースとの試合は雨で後ろにずれ込んでいたため、勝利した翌日にはシーズン首位カープとの初戦が待っていた。ベイスターズのファン向けのチケットの発売はその日の朝9時からで、運良く取れてしまったので急いでコンビニで発券をし、そのまま新幹線に乗って広島に向かった。 広島での初戦も雨だった。雨の中粘投していた石田健大投手が5回裏につかまり、カープが3点を取ったそのまま雨天コールド。今シーズンの観戦はここまでだな、と思いながらホテルに戻った。カッパを着ていても全身びしょびしょで、突然の延泊だったので着替えもなかった。 ところが東京に帰ってテレビを見ていたら、雨の日の敗戦以降ベイスターズは4連勝、すでにパ・リーグのCSを勝ち抜いていたホークスの待つ日本シリーズに挑むことになった。また慌てて日本シリーズのチケットの抽選に申し込んだものの横浜スタジアムの席は取ることができず、それでも1戦目と2戦目、福岡での試合のチケットを取れたのでさらに慌てて宿を取った。 福岡ヤフオク!ドームで見た2試合の中で特に印象的だったのは第2戦7回裏にあった本塁のクロスプレー。ビデオ判定でアウトからセーフに覆っての得点が、その日のホークスの決勝点となった。あのとき本塁を守っていた戸柱恭孝選手は、大きな心残りを福岡のホームベースに残すことになった。 結局福岡では2戦2敗、落胆したまま帰宅をした。その後さらに横浜に移ってからもホークスが勝って3連敗、しかし王手をかけられたベイスターズはその後土俵際で2連勝、横浜スタジアムでの胴上げを阻止した。現時点で横浜スタジアムはセ・リーグの現在の本拠地で唯一、ホークスが前身の南海、ダイエー時代を含めて日本一の胴上げの経験がない球場となっている。2勝3敗となって福岡に舞台を戻した第6戦を見たのは、横浜スタジアムのパブリックビューイングでだった。ホークスの先発は沖縄出身の東浜巨投手。亜細亜大学が東都1部リーグで連覇していたときのエースだった。5回表、ベイスターズの白崎浩之選手が東浜投手からソロホームランを打つ。白崎選手は亜細亜大学が優勝した2012年春、駒澤大学の4番として首位打者に輝いている。日本シリーズの土俵際、DHに抜てきされた白崎選手の一発から東浜選手が崩れた。この1イニング、リレーした3人の投手から3得点。しかし1点リードで迎えた9回裏に、元ベイスターズの内川聖一選手が山﨑康晃投手から打ったソロホームランで同点に。ホークスの絶対的守護神デニス・サファテ投手が9回表から11回表までまたいで無失点に抑えると、ホークスは川島慶三選手のサヨナラタイムリーで優勝を決めた。 あの年最後に行われたベイスターズの試合は、横浜スタジアムの大型ビジョンで、ホークスの胴上げを見ることで終わった。