祝!ベイスターズ日本一。「もののけ」をスタジアムに呼び込んだささやかな執念
怪我人続出に苦悩するベイスターズベンチ
今年、2024年ベイスターズのレギュラーシーズンは決して良い状態で終わったわけではなかった。ほとんどの試合でマスクをかぶってきた山本祐大選手が9月の半ばに右尺骨を骨折し、以降試合に出ることができなくなった。それまで15年以上にわたって捕手併用でやってきたベイスターズにとって、久々の正捕手らしい活躍を見せていただけに、その衝撃は軽いものではなかった。それでも以降、ベテランの戸柱選手、伊藤光選手がマスクをかぶって試合を作り、最終的になんとか滑りこんだAクラスだった。 * CSに入ると、1998年の権藤博監督の「もののけにとりつかれた」という言葉がしっくりくるような緊張感に満ちた試合が続いた。1試合ごとに怪我人が出る。唯一の二桁勝利投手、東克樹投手がCSのファーストステージで走塁中の肉離れにより登板が難しい状況、伊藤選手も肉離れで選手登録を抹消された。宮﨑敏郎選手は試合中に足が攣り担がれながら交代した。ファイナルステージではクローザーの森原康平選手がベンチを外れる。 ジャイアンツとのCSファイナル、東京ドーム最上階のスタンドから見ていた第2戦は、両軍ヒットは出るがそれが繫がらず厳しい投手戦だった。シーズン中15勝3敗という成績をあげたジャイアンツのエース菅野智之投手から、今年のセ・リーグ首位打者となったタイラー・オースティン選手がソロホームランを放ち、これが決勝点となった。オースティン選手の全力プレーは常に故障と隣り合わせで、2020年に来日して以来、1年を通して満足に活躍できたシーズンはなかった。ジャイアンツ打線もフルシーズン、セカンドで活躍していた吉川尚輝選手を欠く中で打順に苦しんでいた。そこを突破口とばかりに、CS中にチャンスが回ればたびたび岡本和真選手を申告敬遠で歩かせるというベイスターズベンチの判断もまた、執念を感じさせるものだった。 最終戦となった第6戦、同点で迎えた8回表、こちらもジャイアンツの勝利への執念として、菅野投手が中3日でマウンドに上がり、ベイスターズ打線を三者凡退に抑えた。そうして9回も引き続いて投げた菅野投手からツーアウトの状況で牧秀悟選手が放ったタイムリーヒットは、決して痛快な当たりではなかった。ただ、この場面で必要なものは美しさでも痛快さでもない。1点を取る、そのための執念が打たせたヒットだった。その裏、1点差で最後の打者、今まで執拗に敬遠を続けられていた岡本選手にまわったことも、なにか象徴的なめぐりあわせだった。