現存する世界最古の時計ブランド、ブランパンを代表する3本【腕時計のDNA Vol.13】
定番「ヴィルレ コンプリート カレンダー」
クオーツ式の台頭に対し、ブランパンはフレデリック・ピゲの技術力を背景に「シックスマスターピース」を発表し、機械式時計の復権を宣言した。スイスが誇る複雑機構を搭載したこの6本の腕時計は、コンプリートカレンダー ムーンフェイズ、ウルトラスリム、パーペチュアルカレンダー、ミニッツリピーター、スプリットセコンドクロノグラフ、フライングトゥールビヨンであり、それはいまもブランドを支える技術の根幹になっている。なかでもフルカレンダーとムーンフェイズを一体化した「ヴィルレ コンプリート カレンダー」はブランドの顔だ。 ふたつの小窓で月と曜日を示し、日付は曲線を描くウネウネ針で差すことで、多機能表示でも繁雑さを感じさせない。さらにムーンフェイズの月の表情は可愛らしく、多くのファンに愛されている。そして優美な伝統機構にも最新の技術革新が注がれていることも見逃せない。通常フルカレンダーの調整には専用ピンによるプッシュ操作などが必要だが、ラグの内側に設けたアンダーラグコレクターで容易に調整できる特許技術を導入。72時間という駆動時間も実用的だ。こうした複雑機構を一部のマニアだけでなく、幅広い時計愛好家が楽しめるようSSケースにも搭載していることもブランドの誠実さを感じさせる。ひと目でそれとわかるブランドアイコンのダブルステップベゼルからは、美しさと機能性の両立と同時に、伝統と永続への強い意志が伝わるのだ。
通好み「エアコマンド」
ダイバーズの印象の強いブランパンだが、そこで実証された機能と信頼性は海に留まることはなかった。50年代にアメリカ海軍が「フィフティ ファゾムス」を採用したことを受け、アメリカ空軍向けに設計したミリタリークロノグラフが「エアコマンド」だ。当時、高精度のクロノグラフ導入を計画していたアメリカ空軍に対し、現地代理店アレン・V・トルネクを通じて試作品を提供した。だがそれもわずか12本であり、以降の正確な生産本数も記録に残っていないため、愛好家の間でも幻とされていた。そうした背景や稀少性からも通好みのブランパンといえるだろう。 回転式ベゼルを備えたスタイルは、一般的なダイバーズクロノグラフを思わせる。だが大きな違いはそのベゼルが両方向回転式のカウントダウン仕様になっていることだ。分針にベゼルの数字を合わせることで、作戦遂行までの残り時間が計測できる。2カウンターのクロノグラフムーブメントは垂直クラッチとコラムホイールを搭載し、容易にゼロリセットするフライバック機能を備える。さらに10振動のハイビートによる高精度に加え、シリコン製のテンプとヒゲゼンマイで磁場の影響も受けにくい。こうした最新技術を注ぎながらも、日付カレンダーを採用することなくヴィンテージスタイルにこだわったのも嬉しいところだ。