必要な部分だけ回路を印刷、「普通のPCB」で実現 エレファンテック
2つの技術革新
今回の早期開発成功を実現させた技術革新として同社が挙げるのは、主に「リジッド基材対応」と「多層対応」の2つだ。 同社の手掛ける印刷方式では、平滑な表面に印刷して高い密着性を得る必要があるため、密着性実現という観点では不利で、これまで十分な密着性が実現できていなかったことがリジッド基材対応の課題だったという。 同社は今回、FR-4(ガラスエポキシ基材。最も一般的に使用される)を含む多くの硬質基材と密着する、プライマーと銅ナノ粒子インクの新規開発に成功した。同インクはFR-4に対して強い密着性を発揮し、従来困難だったという高温耐性も高く、150℃、240時間の試験後に1.0N/mm以上(UL796規格に準じた試験方法によるもの。同社測定による参考値)の密着性を実現。「リジッド基板として活用可能な水準に到達している」としている。 また、多層対応については、ビア内にインクを塗布する技術とプライマーの改良にって、多層板/ビアを形成可能になったとしている。ただ、今回の材料/プロセスは硬質基板向けで、フィルム基板の多層化については現状では適用できていないという。
微細化や大電流対応も
同社は今回、配線の微細化や大電流対応も実現したと説明。微細化については、プライマーとインクの組み合わせの改良および印刷機の精度の改良によって、L/S=50/50μmの配線形成が可能になった(従来はL/S=100/100μm) 微細化の達成には、プライマー表面でインクがぬれ広がらない必要があるが、インクがぬれ広がらずはじくようなプライマーでは、描画や密着が難しいという課題があったという。今回開発したプライマーでは、描画性と密着性を担保しつつ、ぬれ広がりを最大限抑制することに成功している。 大電流対応では、高い密着性/めっき耐性を持つプライマーとインクによって、100μm級の銅膜厚の基板も製造可能にした。 プリンタブルエレクトロニクスの世界では、流せる電流量に制限があることが普及の大きな課題だという。同社は、印刷プロセスとめっきプロセスを組み合わせたプロセスを提案し、10μm前後の銅膜厚の対応を可能としていたが、これは信号線には十分ではあるものの、パワーエレクトロニクスには不十分だった。 今回、同社が新開発したプロセスでは、電気めっきによって100μm級の銅膜厚まで対応が可能となった。同社は「銅価格が着実に上昇する中、必要な部分にだけめっきで銅を形成する工程の経済合理性は、銅の厚みが増えるほど高まる」とその利点を強調している。 エレファンテックは、既に複数の電機メーカーと先行して取り組みを実施していて、2025年前半には試作提供を開始する予定だという。同社は、「本製法によるプリント基板は、従来の汎用多層基板製造工場に、当社印刷装置を導入すれば、印刷工程以外は既存の製造設備を用いて量産することが可能だ。供給体制については、自社製造にこだわらず、パートナーへの当社装置・材料の提供も含めた形で構築していく」と述べている。
EE Times Japan