埼玉の「イモビール」から、世界28カ国展開のクラフトビールに変革 「COEDOビール」開発秘話、その戦略の源流とは
◆クラフトビールに価値が出る時代
――「COEDO」のリブランディング当初から、グローバル展開は考えていたのですか? 私自身、学生時代にバックパッカーをしていたので、海外や外国へのハードルは感じません。 「いいね」って言ってもらえるところに展開する、それだけのことです。 かつて川越に航空宇宙産業の拠点があり、NASAの方が、昔の「小江戸ブルワリー」のレストランによくきていました。 「サツマイモのビール」というと日本ではバカにされたけれど、外国の方たちにはフラットに「おいしいね」と言っていただけました。 おいしいと言っていただけるところに展開していくのは、普通のことです。 あとは、日本の食や文化はこれから世界に誇れるものだという自信もありました。 例えば、私が初めて海外に行った頃は「生魚を食べる日本人は気持ちが悪い」と言われていましたが、今では世界中の人が寿司を好みます。 それに、スコットランドのシングルモルトウイスキー、シャンパン地方のシャンパーニュのように、ローカルで高品質、ハンドメイド的なものに価値があるとされる時代がくると思ったんです。 ーー「COEDO」ブランドが世界に展開されていくわけですね。 海外展開を考える中で、「グローカル」という言葉に出会いました。 マクドナルドのように大規模なグローバル展開を目指すのではなく、ローカルとローカルを繋いでいく。 例えば、フィリピンにお酒の輸入をしている会社の営業担当者がいたとして、その方と「COEDOブルワリー」が繋がるとします。 マニラ全域でCOEDOが溢れるわけではないけれど、ピンポイントで流通するようになる。 点と点を繋いでいくのが私たちの理想です。 その拠点が川越にあると思ったら、面白いですし、賛同してくれる方も多いと思います。 実際、輸出先は28カ国に増えました。最初は当然0カ国だったので、すごい成長です。
◆ビールの原点に「人間都合ではない農業」
ーー今後の事業展開について、教えてください。 クラフトビールのマーケットシェアは、日本で1%を超えました。 その成長スピードは他国と比べるとものすごく遅いのですが、それでも伸びています。 一方、協同商事の源流である有機農業分野では、認証を受けた圃場は全体の0.2%しかありません。 ヨーロッパは3割くらいが有機農作物を作る工場だったりします。 この差を考えたときに何が大切かというと、これまでは、対人間に対するメッセージになりすぎていたと思うんです。 人間都合で植物の多様化を犠牲にし、ある特定の植物だけ群生させている状況ですから、自然から外れているんですよね。 それなのに相変わらず、人間都合のメッセージで、「安心・安全です」と言っても、おかしなことだと思うんです。 どれだけ生態系を維持しながら農業に取り組んでいるか、サステナブルな取り組みにお金を払っていただくということが大切なのではないかと思っています。 とはいえ、堅苦しいことは伝わりにくいです。 私たちは埼玉県東松山市にあるCOEDOクラフトビール醸造所では年に2回、キャンプ型音楽フェスを開催しています。 こうしたエンターテイメントを通じて、環境やサステナブルな取り組みについて触れられる機会を作りながら、伝えていきたいと思っています。
■プロフィール
株式会社協同商事代表取締役社長 朝霧重治 1973年6月、埼玉県川越市生まれ。一橋大学商学部卒。1997年三菱重工業株式会社入社、翌年の1998年10月、株式会社協同商事入社。ビール事業を中心に企画に携わり、2003年に同社副社長、2009年に代表取締役社長に就任。「Beer Beautiful」をコンセプトに、クラフトビール「COEDO」のビール事業を再生した立役者。現在では、世界28カ国に届けている。
取材・文/川島愛里