「人形浄瑠璃文楽」の魅力とは?“最後の公演”初体験レポと竹本織太夫さんが語る「存続の危機」
「曾根崎心中」で感じた竹本織太夫さん圧巻の存在感
私の観た曾根崎心中は3つの段に分かれており、そのたび太夫と三味線の演者は替わるのですが、しばらく物語が進むと、太夫の声に心奪われていることに気がつきます。中でもクライマックスの天神森の段で登場した竹本織太夫さんの声には正直びっくりしました。 声に太い芯が通っていて、腹に響くのです。織太夫さんが口を大きく開くたび、大きな太鼓を叩いたように空気が震えます。伸びた背筋に端正な顔立ち。見た目にも華があります。彼が未来の文楽を背負う存在であると知るのはそのあとのことです。 最初は人形に目を奪われていましたが、上手にある床にいる二者、中でも太夫がこの場の主役であることに気が付くまでに時間はかかりませんでした。ホールに響くのは太夫の地声です。音響設備などなくとも、550人はいる小劇場の後方観客席までまっすぐに飛んでいきます。愁嘆場(しゅうたんば※登場人物が嘆き悲しむ場面)で緩急をつける太夫の語りに、身悶えしそうになります。このライブ感が文楽の醍醐味なのでしょう。 文楽界のトップランナーである竹本織太夫さんは、今回のインタビューの際、文楽をある食べ物にたとえていました。 「文楽は天ぷらうどんです。最初に眼を惹くのは人形で、これは天ぷらです。そして、太夫はうどん、三味線はだし。天ぷらはごちそうだけど、うまい天ぷらを食いたかったら天ぷら屋に行きますよね。天ぷらうどんのメインはうどんでしょう。これがうまくないと誰も食べたいと思わない。もちろん3者のバランスも大事です」 天ぷらうどん、おいしいですよね。個人的には、天ぷらうどんの麺はゆるい方が好きなのですが、どれが主役かなんてこれまで考えたことがありませんでした。でも、太夫の語りこそが文楽の主役だと教えてもらったのは大きな発見でした。 太夫は文楽の世界の案内役です。最大の見せ場、曾根崎心中の見所は、若き2人が天神の森で来世で結ばれることを誓って心中するシーンです。太夫の切ない語りとともにクライマックスを見届けた満員の観客は、大きな拍手で演者を称えます。 帰り道、いいものを見たと言う満足感が押し寄せてきました。文楽、面白いではないですか。でも、その文楽が危機に瀕しているというのです。一体何が起こっているのでしょうか。