「ああ、ロミオ」短いセリフに詰まった深い意味、有名なセリフには有名になる理由がある
ああ、ロミオ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの? (『ロミオとジュリエット』第二幕第二場、松岡和子訳、ちくま文庫) この言葉、音として耳に残りますよね。ちょっとみなさん、言ってみてください。 ああ、ロミオ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの? なんかちょっと、気持ちいいですよね。「言いたくなる」リズミカルな言葉は世の中に普及するということを、シェイクスピアはわかっているんです。それだけ聞いてもよくわからないけど、確実に耳には残る言葉です。
ロミオとジュリエットはお互い激しい恋に落ちますが、それぞれがモンタギュー家とキャピュレット家、憎み合う家同士だったので、絶対に愛し合ってはいけない。そんな設定をイメージしながら、この言葉をもう一度味わって見ましょう。 ああ、ロミオ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの? 最初の「ああ、ロミオ、ロミオ」は、ロミオ個人のことです。愛する人の名前を繰り返すことで、どれだけロミオという生身の人間を好きなのかが痛いほど伝わってきます。
でも、3度目の「どうしてあなたはロミオなの?」の「ロミオ」は、モンタギュー家のロミオという、社会的な位置づけとしてのロミオを指します。つまりこの有名なセリフは、説明的に言えば「私の大好きなロミオは、どうしてモンタギュー家のロミオなんでしょうか」ということを語っているのです。 ただのロミオではなく、モンタギュー家のロミオであるがゆえに、2人の間にはとてつもなく大きな壁がある。でもそのことを説明的に言ってもつまらないので、「ああ、ロミオ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの?」という、シンプルかつキャッチーな言葉で、言葉数以上に多くのことを語らせたわけです。
■この言葉の続きは? このシンプルすぎる名ゼリフの中には、この作品の核となるストーリーが凝縮されています。同時に、音楽性があってリズミカルで言いたくなる、耳に残る音でもあるのです。この言葉には続きがあります。 バラと呼ばれる花を 別の名で呼んでも、甘い香りに変りはない。 ロミオだって同じ、たとえロミオと呼ばれなくても 非の打ちどころのない尊い姿はそのまま残る。 ロミオ、名前を捨てて。 あなたの体のどこでもないその名の代りに
私のすべてを受け取って。 (同書、第二幕第二場) バラは「バラ」という名前じゃなくても、美しさ、香りに変わりはない。だから、バラという名前にこだわる必要はない。ロミオも同じで、その名前を捨ててほしい、モンタギュー家を捨ててほしい。たとえそうしたとしても、私の愛する素敵なロミオであることに本質的に変わりはないと。 言葉の重要性をじゅうぶん理解しながらも、ここでは表層的な名前には何の意味もないことをシェイクスピアは語っています。奥深いです。こういう有名なセリフには、有名な理由がやっぱりあるわけです。
木村 龍之介 :演出家