90歳の母が初期の認知症に。寿命が尽きるか、金が尽きるか…。故郷に移住を決めた娘は、入院中の母から「お前が来ても何の役にも立たない」と言われ
◆認知症の初期症状 しかも、これだけにとどまらないのである。 「カラオケ教室の月謝を払わないといけないから、いつもカラオケに持って行くバッグをすぐに取ってきて」 「身体が痒いから薬屋さんで痒み止めを買ってきて」 あなたは一体何様ですか? 病室でなかったら、そう声を荒らげたくなるほどの偉そうな態度で命令してくる。 いくら病人とは言え、あまりに自己中心的な言動に、はあ……、この人どうしちゃったの? 驚きを通り越して呆気にとられる。 「いつ退院できるかわからないんだし、カラオケの月謝は退院してからだっていいんじゃないの」 「ここは総合病院なんだから、痒ければ看護師さんに相談して、塗り薬を処方してもらったら」 極力冷静に説得を試みるも、全く以て聞く耳を持たない。それどころか、 「四の五の言ってる暇があったら、さっさと買ってきなさいよね」 青筋を立ててぶち切れる始末。兄からの電話を受け、取るものも取りあえず駆けつけたというのに、それはないでしょ! 怒りが腹の底からこみ上げてくる。 今日この日まで、絶えない言い争いの原因を作っているのは気が短い老父なのだろうと勝手に思っていた。 だが、視線の先が定まらない強ばった表情と人の気持ちを逆なでするような老母の言動を目の当たりにし、こういう言い方をされたら老父でなくてもけんかになるわと考えを改める。 そして、これは間違いなく認知症の初期症状だろうと太いため息が漏れた。
◆深夜の台所 老母の入院中、長きにわたり彼女が管理してきた台所の片付けをはじめたはいいが、腐った食材、大量のプラスチック容器やレジ袋などが、出てくること出てくること。 しかも、整理されずにただただ放り込んであるのだから、どこから手を付けたらいいのか……と、途方に暮れる。 日頃、立派なことを言う割には、全く以て実態が伴っていないではないか! それが老いによるものなのか、元々雑な性格なのかはさておき、大学進学と同時に実家を出て早40年。 たまに帰省することはあっても、母が仕切っている台所の流しの下や食器棚の一番下の開き戸の中までチェックすることはなかったわけで。 まさかのまさか、ここまで悲惨な状態に陥っているとは……。正直、想像だにしていなかった。 「おやすみー」 老父が2階の寝室に引き上げた後の深夜の台所で、一人死蔵品と格闘する。 消費期限の切れた食材や何年も前に賞味期限が切れている調味料だけでも45リットルのゴミ袋があっという間にいっぱいになり、汚れでベタついたレジ袋やプラスチック容器は優にその3倍もある。 洗面所の戸棚に押し込んであった大量のタオルを一度全部出してたたみ直すだけでも一苦労。いやはや全くどういうことよ。 「あの人、寝たきりになっても口だけは達者なんだろうなあ」 他人事だった介護を自分事として捉えた瞬間だった。
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