90歳の母が初期の認知症に。寿命が尽きるか、金が尽きるか…。故郷に移住を決めた娘は、入院中の母から「お前が来ても何の役にも立たない」と言われ
2020年に総務省が公開したレポートによると、遺品整理にかかる見積もり金額で多いのは10~40万円の間の取引だそう。いつかはやってくる遺品整理に不安を感じている方もいらっしゃることでしょう。そのようななか、平均年齢90歳、父母と叔父叔母の4人の介護をするフリーライターのこかじさらさんは、「とっとと逝ってくれ、と毎日のように思っています」と話します。そのこかじさんは数年前まで両親の状態について、「深刻に考えてはいなかった」そうで――。 【書影】4人の家族を介護するフリーライターの日々がエッセイに!こかじさら『寿命が尽きるか、金が尽きるか、それが問題だ』 * * * * * * * ◆他人事だった介護がついに自分事に! 「ここ最近、親父とお袋がくだらないことで言い争いをして。そのたびに電話が掛かってくるんだから、もうやってられないよ」 「お袋の奴、ちょっと気に入らないことがあると、タクシーを1時間も飛ばして家出するんだけど。迎えに行くこっちの身にもなってほしいよ。俺だって遊んでるわけじゃないんだからさ」 老父母が80代に突入するかしないかの頃だったと思う。東京で会社勤めをしていた私のところに、実家から5分ほどのところに住む自営業の兄からウンザリした様子で頻繁に電話が掛かってくるようになった。 すでにこの頃、老父母共に認知症の初期症状が表れていたのだろうが、元々短気で神経質な父と何でも自分の思い通りにならないと気が済まないほど我の強い母故、くだらない夫婦げんかは日常茶飯事。 「放っておけばいいんじゃない」 対岸の火事よろしく、深刻に考えてはいなかった。 だがしかし、5年ほど前、そうは言っていられない事態に襲われ現実を直視せざるを得なくなる。
◆「お前が来ても何の役にも立たないのに」 「お袋が救急車で運ばれた!」 打ち合わせ先へ地下鉄で向かっていると、兄から電話が掛かってきたのである。 「どうしたの?」 「お腹が痛いって七転八倒して」 その瞬間、「大丈夫だろうか?」と心配するより先に、「あの人、年齢の割には大食いだからな」まずはそう思った。 だからといって放っておくわけにもいかない。打ち合わせを終えるとすぐ、東京駅発の高速バスに飛び乗った。 案の定、食べる量に消化が追いつかず、胃腸がパンク状態に陥ったとのこと。重篤な病気ではないものの、年齢を考慮し入院することになった。 その頃実家では、買い物も、炊事も、洗濯も、何ひとつ自分ではしないくせに、一人残された老父が「これは食べたくない」「甘過ぎて口に合わない」と、わがまま全開で義姉を困らせていた。 入院中の老母は老母で、点滴を打ち、尿道からカテーテルを挿入している状態にもかかわらず、私の顔を見たと同時に「何しに来たの? お前が来ても何の役にも立たないのに」と、驚くようなことを言い、私を戸惑わせる。 いくら気が強いと言っても、娘に対して、しかも入院先に駆けつけた人間に対して、不用意にこうした言葉を投げつけるほど自制が利かなくなってしまったのだろうか……。 このとき、これからの母との関わりは一筋縄ではいかないだろうと予兆のようなものを感じ、思わず首筋が寒くなった。
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