阿川佐和子「揺れる古稀」
落胆するのは、常に自分の輝いていた過去を基準に見てしまうせいだろう。だから今の衰えを情けなく思うのだ。 でも、他人はそんなに自分以外の人間の老化を気にしちゃいない。 「ぜーんぜん問題ないですよぉ」 「七十歳にはとても思えない!」 そんな言葉で慰めてくれる。 ところが先日、一緒に食事をした男友達から世にも優しい声で語りかけられた。 「アガワ、つらくない?」 「なにが?」 「まぶた。そんなに落ちちゃって。その目じゃ見づらいと思うよ。手術したほうがいい」 愕然とした。「別につらくなんかないわよ」と笑い飛ばして店を出て、家に帰って鏡に向かう。そんなに私、醜い目をしているのだろうか。 子供の頃は「つぶらな大きな瞳」を売りにしていた私である。今やあの頃の瞳の半分ぐらいに縮小した。試しに指で垂れたまぶたを押し上げてみる。このままホチキスで留めてやろうか。 こういうとき、女は最新医療に身を委ねたくなるのだろう。やりませんけどね、今のところは。
阿川佐和子