「路頭に迷いつつある都市」渋谷から見える日本社会の未来、カルチャーの行方とは? 社会学者の吉見俊哉さんとアーティストの宇川直宏さんが渋谷パルコで対談「渋谷半世紀」~若者の聖地の今~
▽低い所から眺望する未来 吉見さんは2021年の東京五輪によってさらに進んだ渋谷や東京の再開発の過剰さも指摘した。関連して宇川さんが渋谷の近況を語る。 「18年頃から、エンタメやクラブカルチャーを24時間稼働させるという、渋谷特区的な『ナイトタイムエコノミー政策』の発想があった。海外選手や五輪観戦に来る訪日客のための夜遊びの場と、その消費活動を創出し経済効果を高めるためだった。一方1999年からは、渋谷の高層ビルにインターネットベンチャーを集めてシリコンバレー型の企業集積地域にしようという『ビットバレー構想』も進められ、2000年のIT不況で後退したが、その後、現行の再開発で再び同じようなコンセプトが復権しようとしていた。しかしコロナ禍が始まり、いずれの構想も崩れてしまった。五輪とコロナが渋谷の惨状を招いたと思う」 吉見さんが提案する。 「そもそも東京にもうオリンピックなど必要なかった。愚かな発想にみんなが踊らされた。むしろ、東京の未来にとっては街と川の結びつきを取り戻すことが重要だ。渋谷川と宇田川の合流地点に形成されたのが渋谷という場所。近年、若い人たちが川筋に店を出し、文化や商業の活動拠点を持ち始めていることが注目される。渋谷川に沿って原宿に向かうキャットストリートは早い例で、宇田川の先にも奥渋谷が形成された」
「高速道路は本当に東京都心に必要なのか。これからは脱クルマ社会になる。自動車中心の社会インフラを見直すべきなのだ。1964年の東京五輪で廃止させられたトラム(路面電車)の復活を提案したい。スピードの速い車では、動いている人と歩行者は同じ空間を生きられないが、スローモビリティーの自転車やトラムならば乗客と路上の人は同じ空間を共有できる。速いことは必ずしも良いことではない。多様な速さの都市交通を整備すべきだと思う。容積率を確保しようと超高層ばかりを建てる都市開発も終わりにしたい」 宇川さんが提案する。 「世界のアーティストたちが、いま東京に住みたがっている。極度の円安が引き金だが、リモートワークの時代、身体の在りかはどこでもよい。円が安いのは悪いことだけではないと逆転の発想を持ち、移住を希望する海外のアーティストや研究者や技術者にこぞって渋谷に移り住んでもらい、さまざまな分野や世代の人々とコラボレーションできる創造都市を目指すべきでは? 街が栄えるにはその街で生活するアーティストの存在が大きい。渋谷は訪日客の消費によってにぎわう時代が長く続いていたが、消費者の思いでつくられるだけの街は主体がなく、トレンドが過ぎ去り飽きられたらそこで終わってしまう。だからこそ渋谷の文化財とも言える古くからの店、建物、空間を残していかなくては」