東京国際映画祭を変えた安藤裕康チェアマンは元外交官にして「銀髪の映画青年」だった
「As the Tokyo International Film Festival starts very soon for you, I hope everything goes well there. (もうすぐ東京国際映画祭が始まりますね、全てがうまくいきますように)」 【写真】第37回東京国際映画祭のレッドカーペットに登場したフェスティバルナビーゲーターを務める菊地凜子 第37回東京国際映画祭が開幕した、10月28日午後8時ごろ。東京会館に向かう車の中でWhatsAppのメッセージを読む。ピクサーㆍアニメーションㆍスタジオ(以下「ピクサー」)のリードテクニカルディレクター、マーシャ・エルスワースからだった。彼女ともう少し話し合ったほうがよかっただろうか。プチョン国際アニメーションフェスティバルはまだ終わっていない。親友であるマーシャとは、仕事のパートナーとしても一緒にやっていく約束をしてきた。 「トイㆍストーリー」や「インサイドㆍヘッド」のシリーズなど、製作スタッフとして参加した世界的なヒット作以外にも、すでに2本の短編アニメーションを演出したマーシャ。その作品は数多くの映画祭に出品され、受賞もした彼女を監督に、筆者はエグゼクティブㆍプロデューサーとしてあと2本ぐらい短編アニメを作り、長編アニメのデビューを果たすというプランを立てている。すでに基本コンセプトができている「COVETING」から合流する。予算はピクサーの全額負担。そう。「literally & technically(名実共に)」ハリウッドデビューである。人生の重要な1ページが始まろうとしていた。ただその前に、原田眞人組の評論家として出席する東京国際映画祭の開幕レセプションで、会いたい人がいた。安藤裕康チェアマン。
映画スターのような登場
初めて見た彼は、まるでムービースターだった。コロナ禍の真っ最中だった2020年10月28日、韓国・プサンで行われオンラインで中継されていた第14回アジアㆍフィルムㆍアワードの授賞式。リモート画像だが、すてきな銀髪をなびかせている彼は、まるでショーンㆍコネリーを連想させるような流ちょうな英語で、「The night is long that never finds the day. (朝の来ない夜はない)」というウィリアムㆍシェークスピアの戯曲「マクベス」のセリフを引用した。 授賞式が終わり、数人の映画界の知人がズームで集まったオンライン飲み会で最も話題になったのは、誰もが予想していた受賞者よりも、1970年の外務省入省以来、欧米とアジアを回りながら活躍し、外交官としてのキャリアの最後を、「3大映画祭の長兄」であるベネチア国際映画祭の主催国イタリアの日本国特命全権大使として飾った彼についてだった。アジアのどの国にも前例のない、外交官出身の映画祭の最高決定権者。彼は毎年の再会の場だった映画祭が次々と中止になり、疫病の惨禍で苦しむアジアの映画人に希望を与えたのだ。