球児の2年4億円は高いか、安いか。
契約更改で球団がよく使う常套句が「バランス」という言葉である。チームのエースがこれくらいの値段だから、君もこれだけで我慢してくれ、と、契約更改での年俸交渉で常に使われる相対戦法である。今季の阪神の推定年俸を調べてみると、オ・スンファン、メッセンジャーという2人の外国人を除くと、ピッチャーでは能見篤史(36)が、1億4000万円で最高、次が2年連続のホールド王の福原忍(38)の1億2000万円、藤浪晋太郎(21)が8500万円、安藤優也(37)も8500万円と続き、ローテーを守ったもう一人の中堅左腕、岩田稔(32)は、6000万円である。藤浪は、今オフの契約更改で1億を突破、能見の金額を超えることが濃厚だが、2億円オーバーはないと予測されていて、単年で2億円以上の契約を結んだ藤川が、チームの日本人投手トップということになる。 藤川は、「金本監督の好きなようにして頂いて、最高に使いやすい信用できる選手になる」と、先発、中継ぎ、抑えと、どのポジションでもチーム構想に沿う考えであることを明らかにした。敗戦処理さえ辞さない男気を見せたが、意地悪な見方をすれば年俸4億円の敗戦処理など聞いたことがない。4億円という額には、藤浪に続く人気スターが、今なお出てこない阪神の“顔料”や、投手リーダーとしての“リーダー料”など、グラウンド内外の付加価値も、多分に含まれているのだろうが、それ相応の数字を残さねば他投手から球団に対しての不信感が芽生えることになるだろう。ソフトバンクの松坂大輔のようにチームが勝てば、そういう負の要素は、話題にもならないが、負けが込むとチームの結束をバラバラにする要因になる。プロの集団とは、そういうものである。それ相応の数字とは、先発なら2桁、中継ぎならば、50試合以上の登板数と、防御率2点台確保が、最低限の4億円プレーヤーのノルマだと思う。 また、こういうお金の使い方は、ファンや株主から球団の経営姿勢を問われることにもなる。そもそも選手の年俸は、誰が払っているのかというスポーツエンターテインメントの原理原則をこのチームの球団オーナーは忘れてはいまいか。それは、チケットを買い、グッズを買うファンであり、多くのファンを背景に持ったスポンサー企業である。ファンのお金を最高のパフォーマンスや、チーム成績、サービスを提供することで、ファンに還元するのが、エンターテイメント事業の本質である。得た利益は、さらにそのサービスを向上させるための投資や株主に還元しなければならない。プロスポーツにおいて、支出の大半を占める年俸という名の投資には、ギャンブル的な要素が強いが、説得力のない投資は株主への裏切り行為にもなる。 他球団がオファーした条件よりも上の金額をベースに、なぜインセンティブ(出来高払い)という形を採用しなかったのか。交渉の窓口が球団フロントだとしても最終決断をしたのはオーナーなのだから、太っ腹すぎるオーナー決裁には甚だ疑問が残る。その予算があるならば、新外国人獲得予算に、もっと上乗せして、メジャー級の大砲を獲得すればいいのではないか、という議論もある。 もっとも4億という数字は、一番は、古巣に復帰した藤川自身へのプレッシャーとなるだろう。藤川が、かつての“火の玉ボール”で、ライバルチームをなぎ倒し、シーズン終了後、「4億円でも安かった」と、オーナーやファンに言わせれば、しめたものであるのだが……。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)