ノーベル賞の吉野氏、リチウムイオン電池で「再エネ普及しやすくなる」
2019年のノーベル賞「化学賞」の受賞が決まった旭化成名誉フェローの吉野彰氏(71)は9日夜、同社で記者会見を開いた。会見場に姿を現した吉野氏は「私自身いま大変興奮している」と満面の笑み。開発に携わったリチウムイオン電池について、一番の機能は電気を蓄えられることで再生可能エネルギーの普及に貢献できることや、今後まったく新しい技術が登場することへの期待を語った。 【動画】ノーベル化学賞の旭化成・吉野彰氏が喜びの受賞会見
受賞に「まさか、まさかです」
今回の化学賞を受賞したのは、吉野氏のほか米国の2氏で、充電しながら繰り返し使えるリチウムイオン電池を開発した研究が評価された。スマホやタブレットなどに活用され、端末の小型化にもつながった。 吉野氏は京都大学工学研究科の修士課程を修了後、1972年に旭化成に入社。同社の研究開発部門でリチウムイオン電池の原型を考案したほか、電極や電解液といった電池の構成要素の研究などで顕著な研究成果を挙げた。 ここ数年は、ノーベル化学賞の候補者として名前が挙がっていた。「化学賞はフィールドが非常に広いので、リチウムイオン電池のようなデバイス系はなかなか順番が回ってこない。もし回ってきたら絶対取りますよ、と以前から申しておりましたが、まさか、まさかです」と笑顔を弾けさせた。 受賞連絡の直後、夫人に電話で伝えたという。「時間がなかったので、決まったぞ、とだけ伝えましたら、腰を抜かすほど驚いておりました」と笑った。 研究者に必要な要素を聞かれると「研究者は頭が柔らかくないといけない。それとは真逆になるが最後まで諦めない執着心。この2つが必要。難しいのはこの2つのバランスをどう取るか。固いだけではめげてしまうし、柔らかいだけだと前に進まない」と吉野氏。さらに「もう1つの要素は(その研究が)本当に必要とされる未来が来るかどうかです。その先読みをしながら研究を進める。間違いなくゴールがあると確信できれば、少々の苦労があってもやり遂げられると思います」と続けた。 ノーベル化学賞や物理学賞などを選考するスウェーデン王立科学アカデミーは、リチウムイオン電池の環境問題への貢献に期待を示したという。「リチウムイオン電池は電気を蓄えるのが一番の機能。すでに始まっている電気自動車の普及は、リチウムイオン電池がなければできません。また、車を単にクリーンにするだけではありません。電気自動車が普及すると、巨大な蓄電システムが自動的に出来上がり、太陽電池や風力発電などの再生可能エネルギーが普及しやすくなる。そこが、一番の環境問題への貢献だと思います」と訴えた。 今後、リチウムイオン電池の技術はさらに発展を遂げると吉野氏は予想する。「最近出てきた(電解質が固体の)全固体電池には、従来の教科書では説明できない現象がいっぱいあります。原点に戻って研究すれば、今までとは違う新しい技術が出てくる可能性がありますので、非常にわくわくしています。リチウムイオンの本当の姿は、まだ謎だらけなんです」と目を輝かせた。 (取材・文:具志堅浩二)