長野から広まるヘーゼルナッツ栽培 〝学校〟がノウハウ伝授 国産化で「世界一」目指す
長野を発信地としてヘーゼルナッツの栽培が全国に広がりつつある。栽培や収穫に手間がさほどかからず、加工して販売すれば高値での取引が期待できるからだ。長野市内で国内初とされる〝ヘーゼルナッツ学校〟を主宰する岡田浩史さん(64)は「日本人の感性で作った国産ヘーゼルナッツは、品質で世界一になれる」と力を込める。 【写真】畑の隣に設けた店舗ではヘーゼルナッツ製菓材料を使った焼き菓子やアイスなどが販売されている ■気候変動に危機感 岡田さんは洋菓子職人を経て、27歳から長野市に本社を置く業務用菓子製造機器の輸入商社で働いてきた。洋菓子業界を裏方で支えつつ、40代後半からは農業の生産者が加工、流通、販売までを一体的に行う「6次産業化」のプランナーとして農家の経営支援もしてきた。 そうした中で危機感を抱いたのが気候変動にともなう農業の衰退だった。長野県はリンゴもブドウも国内で2番目に収穫量が多い。だが温暖化が進めば収穫量だけでなく品質にも影響が出てくる可能性がある。 50歳のとき、イタリアのトリノへ出張した際、雪原に広がる果樹園に心を奪われた。世界一おいしいと評判のピエモンテのヘーゼルナッツ畑だった。故郷と気候風土が似たその風景に「長野でも栽培できるのでは」とひらめいた。 長野の農家に栽培を提案したが、誰もヘーゼルナッツを知らなかった。それならばと会社を辞め、平成26年に起業。ヘーゼルナッツ栽培と地元産の農作物を使った生アイスなどを製造販売する会社「フル里農産加工」を設立した。約2千平方メートルの畑を借り、110本の苗木を買って、独学で栽培を始めた。 果実は収穫量が増えるまで数年かかる。2年目はわずか8粒、3年目でも1500粒だったが、4年目には80キロになった。「農業経験のない私でも栽培できたことで、ヘーゼルナッツ栽培の将来に確信を持てた」という。 ■加工技術が必要 本腰を入れて「品質世界一」を目指して栽培に取り組むため、イタリアで100年続く苗木業者と契約し、平成30年から苗木の輸入販売を始め、生産者仲間を増やす取り組みを始めた。長野県内だけでなく全国から問い合わせがあり、今年10月半ばまでに沖縄県を除く46都道府県の約1100人が約2万6400本の苗木を購入。計約64ヘクタールのヘーゼルナッツ畑が生まれたと推計される。自身も長野市内の山間部に約8500平方メートルの畑を購入し栽培面積を広げた。 日本国内での栽培経験はまだ浅く、技術として確立するのはまだ先だが、岡田さんによれば、栽培中の主な仕事は下草刈り。果実は8月から9月にかけ成熟し、落果したものを大型掃除機のような機械で吸引して収穫する。高所作業がなく、収穫後の保存も楽で、他の果樹に比べて手間がかからない。とはいえ、生産者に「品質世界一」を一緒に目指してもらうには知識と技術が必要だ。