「自分らしく」グラブに祖母の遺言 神戸国際大付・阪上投手
第93回選抜高校野球大会の開幕試合に先発した神戸国際大付(兵庫)のエース阪上(さかうえ)翔也投手(3年)は、3カ月前に74歳で亡くなった祖母平松千恵子さんから託された言葉「自分らしく」の文字をグラブに記し、マウンドに立った。 【写真】応援ポスターに小泉のんさん 「今日から2年生。気持ちを切り替えてしゃきっとして頑張ろう! ばあちゃん、できるだけ頑張るからよ」。2017年4月10日、千恵子さんは日記の最初のページに、こう記した。返事を書き込めるように文章の下に空白が残された日記は、それからほぼ毎日、阪上投手の勉強机の上に置かれた。 阪上投手は中学3年間、祖父の弘次さん(77)が監督を務めるクラブチームでプレーするため、親元を離れて和歌山県紀の川市で平松さん家族と4人で暮らした。弁当屋で働きながら、テキパキと家事をこなす千恵子さんは、阪上投手の好物のイチゴをよく用意し、試合の応援にも駆け付けた。ただ、阪上投手は「学校遅れるで」「早く起きなさい」と生活態度を注意されることを煩わしく思うことも多かった。机の上に置かれた日記を読むことはなくそのまま進学し、神戸市垂水区の選手寮に入った。 祖母の死は突然だった。20年12月15日、知人の葬式の帰り道に倒れ、急性大動脈解離で意識が戻らないまま亡くなった。母の万季さん(53)から訃報を聞き、千恵子さんの日記を手渡された。 「4/14今日、しんどくなかった?」「4/30いつも翔也は翔也なりによく頑張っていると思います」「2月神戸国際、合格おめでとう! これから翔也の力の見せどころやね。ばあちゃんも和歌山から応援しているよ」。孫を気に掛ける祖母の言葉を読み、「素直になれなくてごめん」と、涙をこらえながらページをめくった。 センバツ出場が決まり、新調するグラブに「自分らしく」との刺しゅうを施した。日記の最後のページにこう書かれていたからだ。「ばあちゃんの好きな言葉 学生の時から好きな言葉 らしく」。試合前夜の18日、「ばあちゃんの分まで頑張るよ」と心の中で千恵子さんにそう語りかけた。 先発のマウンドは一回表、荒れ気味ながらも142キロの直球などで3三振を奪取。紀の川市からアルプススタンドに駆けつけた弘次さんも孫の力投を喜んだ。弘次さんは千恵子さんの写真を持参。「翔也はよう頑張っとるで」と天国の千恵子さんにそう報告した。 だが二回表、先頭打者の安打や四球などで2死満塁のピンチに楠本晴紀投手(2年)へ交代の指示が出た。「自分の活躍を見てほしかったが、思うような投球はできなかった」と悔しさをにじませた。 チームは関悠人選手(3年)のサヨナラ打で延長戦を制し、2回戦へ進む。阪上投手は「一つ勝ち上がったので、次こそ『自分らしく』圧勝して勝ち進んでいきたい」と気持ちを新たに前を向いた。【中田敦子】 ◇全31試合を動画中継 公式サイト「センバツLIVE!」では、大会期間中、全31試合を中継します(https://mainichi.jp/koshien/senbatsu/2021)。また、「スポーツナビ」(https://baseball.yahoo.co.jp/senbatsu/)でも展開します。