「よさこいは人の温かさと街全体でつくり上げる」感動の連続で、取材のはずが踊り子に 土佐弁も分からない記者は「本当の高知県民」になれるか
関東地方で生まれ育った私(25)は今春、新人記者として高知県に赴任した。なじみの薄い土地、知り合いはほぼいない。土佐弁の聞き取りにも苦戦した。住民票では高知県民になったが、実感が持てない。 ただ、聞いていたとおり魚が美味しい。取材で出会うほとんどの人から「高知と言えば、食べ物かよさこい」と言われたことを思い返す。ある晩、居酒屋でひとり高知の魚に舌鼓を打っていると、隣に居合わせた夫妻との会話に花が咲いた。なんと、よさこい祭りのチームを運営しているという。「地方車も自分たちで手作りしてね」と、写真を見せてくれ、楽しそうに話す笑顔が素敵だった。高知と言えばやはりよさこい。そして私はちょうど祭りの取材の取材方法を考えていたところ。翌日、上司に「取材先を見つけました!」と嬉々として報告すると、予想外の反応が返ってきた。 「踊ってみたらどうだ」 確かに、取材を続ける上では土地への理解が不可欠。〝聖地〟でよさこいを踊るのは、記者として高知を知るまたとないチャンスだとは思ったが、果たして私に踊れるのか?そもそも私が踊っていいのだろうか?(共同通信高知支局=船田千紗)
▽「高知と言えば、食べ物とよさこい」 高知市内は、よさこい祭りのポスターが至る所に張られ、バスターミナルには踊り子の銅像も建てられている。街中を歩いているだけで、よさこいの熱をひしひしと感じる。そんな祭りに参加できると考えただけで、不安もあったものの、心が躍った。 参加したチームは「纏り家・尽」。居酒屋で出会った大将の久武静夫さん(63)と妻の啓子さん(58)は、私の参加希望を快く受け入れてくれた。 チームは結成19年目。「焦らず気取らずのんびりと」をモットーとするアットホームな雰囲気が特徴だ。3~68歳の老若男女が所属し、本番の2日間に出演する。 踊り子は鳥取や東京、福岡と各地から集う。数多くのチームを渡り歩いてきた人がいる一方で、初めて参加する人もいて少し安心した。 糸川心花さん(15)と野村美羽さん(15)は連れだって参加する高校1年生。部活に勉強にと忙しい毎日を送るが、「これから受験勉強も始まる。高校1年生はまだ余裕がある。今しかない」と学校に課外活動の申請を出したという。「今回だけじゃなく、いつかまた出たい。将来子どもが生まれたら踊らせたい」。地元のよさこいへの強い思いを感じた。