<1勝にかける・カトガク、甲子園へ>/上 部活自粛で各自トレーニング 「夏がある」気持ち一つに 意思疎通欠かさず /静岡
「まだ、夏がある」。無料通信アプリ「ライン(LINE)」で複数人がメッセージを共有する機能を利用し、思い切ってメッセージを投稿すると、「前を向こう」「だよな」との返信が3年の部員たちから続々と寄せられた。チームの先頭に立つ勝又友則主将(3年)は胸をなで下ろし、数日前の出来事を思い出していた。 【真夏の熱闘】交流試合の写真特集はこちら 新型コロナウイルスの拡大に終息の気配がなかった3月11日夕。いつになくこわ張った表情でグラウンドに部員たちを集めた米山学監督が口にした言葉は「センバツ(選抜高校野球大会)の中止」だった。春夏を通じて初の甲子園となるはずだった舞台。集合の輪が解けると、悔しさをこらえきれずに涙を流す部員もいた。 これまでと同様には野球ができなくなるかもしれない。先を見通せずにもどかしかったが、周りを見ると、もっと不安げな後輩たちがいた。「3年としてチームを引っ張らないといけなかった」と勝又主将。ラインのやり取りで3年の気持ちが一つになり、チームの目標が夏の甲子園(全国高校野球選手権大会)の出場に定まった。 4月に入ると、全部活動が休止になり、状況がさらに悪化したが、チームは活気を失わなかった。春休み後も学校が臨時休校を継続したが、それぞれが寮や実家で鍛錬を続けた。オンラインでトレーニングメニューを共有。ラインで「元気か?」などのたわいのないやり取りも欠かさなかった。目標がチームの結束力を強くした。 この期間は「体を大きくする」ことに力点を置いた。グラウンドで行う練習は実戦的なメニューが多く、どうしても基礎体力づくりが後回しになってしまう。野極友太朗副主将(3年)は「全員がテーマを共有するだけでなく、各自が弱点を意識してアレンジすることなどで、主体性も生まれた」と成果を強調する。 エースの肥沼竣投手(3年)はチームが初めて甲子園の土を踏むことに人一倍、こだわってきた。1年目から「背番号1」を任され、センバツを「先輩たちへの恩返しの場」と考えていた。中止が決まり、心が折れかけたが、「もう少しで高校野球が終わるのに、必死になっていない自分の姿」がおかしくなり、再び立ち上がった。 寮で腕立て伏せや体幹トレーニングをする毎日。捕手に向かって白球を投げ込むことはできなかったが、自分の息づかいしか聞こえない一人きりの部屋で、これまでになく野球に真摯(しんし)に取り組んでいると感じた。インターネットの動画投稿サイトを開き、他校のライバルや大学生の投球を研究することにも力を入れた。 食事にもこだわり、自らに厳しいノルマを課した。以前は朝、昼、夕の3食で4合の白米を食べていたが、2合を追加。自分で米を炊いて、プラスチックケースに詰め込んで持ち歩き、いつでも食べられるようにした。「中止になったセンバツの悔しさを夏の甲子園で晴らす」という思いが背中を押していた。【深野麟之介】 ……………………………………………………………………………………………………… ◇加藤学園の昨秋の戦績 <県地区大会> 2回戦 ○11-0伊豆総合 3回戦 ○2-1富士宮北 準々決勝 ○9-1飛龍 準決勝 ●1-5沼津東 3位決定戦 ○7-3沼津商 <県大会> 1回戦 ○5-0島田商 2回戦 ○5-4常葉大菊川 準々決勝 ○5-4静岡 準決勝 ○3-2静岡商 決勝 ●4-5藤枝明誠 <東海大会> 1回戦 ○6-1大垣西 準々決勝 ○5-4近代高専 準決勝 ●3-4県岐阜商 ……………………………………………………………………………………………………… 新型コロナの影響で中止されたセンバツの出場校に試合の機会を設けるため、甲子園球場(兵庫県西宮市)でセンバツ交流試合が開催される。県勢は加藤学園(沼津市)が出場し、12日に一度きりの試合を行う。コロナ禍の困難を乗り越え、チームが初めて甲子園で戦うまでの道のりをたどる。