ユニクロ柳井正に学ぶ「仕事ができない人」と「結果を出す人」の決定的な違い
● 「木を見て森を見ず」ではなく… 《やっぱり人材。当然ですけど、グローバルだけでは経営できないですよね。ローカルだけでも経営はできない。世界はつながっているわけですよ。グローバルのことも理解しながらローカルの事情に合わせて(やっていく)》 《もっと言ったら、1店舗ずつの個店経営。服の場合は色とサイズが全部違いますよね。だからそういうSKU(在庫管理単位)経営が必要なんじゃないかと考えてます》 《そういった技術はすでに開発されているが、それを全部繋げなきゃいけないんですね。そういう風なエンドツーエンドでできる人、デジタルの世界でもそうですけど、感性の世界でもそうですよね》 《結局、数学の世界と感性の世界の到達点は、いかにお客様の生活にプラスになるか。社会にとってプラスになるか、というところに尽きるのではないかと思うので。そういうことができる人材、チームを各地でつくっていかなきゃいけないんじゃないかなと思います》 「木を見て森を見ず」ならぬ「木を見て森を見る」人材というところが、柳井氏の人材論の中核を成している。細かいところばかりでもダメ、現場を知らずに大雑把に掴むだけでもダメ。こうした人材の育成については、経営学の分野でも研究が進んでいる。 例えば、2002年にデニス・シャーウッドの著作『木を見て森を見よ:システム思考を適用するためのマネージャーガイド』は、まさしく「木を見て森を見よ」の人材論が展開されている。 「システム思考」とは、問題を個別に見るだけではなく、全体として理解することである。ビジネス(に限らず社会全般にも言えることだが)は、複数の要素が相互に影響し合い、一つの要因の変化が他の要素にも連鎖的な影響を及ぼすという「つながり」を前提にしている。
● 「変われないなら死ぬしかない」 例えば、企業が特定の商品を値下げした場合、その影響は売上だけでなく、顧客の満足度、競合他社の対応、従業員の評価など多方面に波及する可能性がある。システム思考は、このような複雑な関係を理解し、最適な意思決定を支援するものだ。 単純な例を挙げるとすれば、こんなところだろうか。 (トラブル) 新しい顧客が増えるにつれて、顧客対応が忙しくなり、サポート部門の負担が増加。すると、顧客対応の質が下がり、クレームが増えるようになった。 (従来のアプローチ) 「サポート部門の負担」を減らすために、人員を増強するなどする。 (システム思考のアプローチ) そもそも「なぜクレームが増えるのか」を全体的に見直す。 他にも「売り上げを伸ばしたいのに、在庫が不足しがち」というときに、単純に在庫を増やすのでは他の商品に影響が出て、管理コストが増えてしまう。 そうではなくて、製造部門との調整や、原材料の確保、物流のスケジュール管理など、多くの要素を総合的に解決するアプローチが大事ということだ。 こうした思考法を社員一人ひとりに持ってもらうというのが、柳井氏の人材論なのである。さて、ここで、冒頭のゾウの話に戻ろう。 柳井氏は、人的資源をいかに活用するかという課題について、こう語っている。 《わたしはよくゾウの話をするのですが、ゾウの尻尾だけを見ていてはゾウと想像できない。鼻だけを見ても想像できない。全体の姿があって、ゾウというものがあるのです》 《それを俯瞰的に、全体観をもって見るのが大事なので、世界とは何か? とか、人間とは何か? 生きるとは何か? 組織とは何か? そういう本質的なことを勉強しない限り、知識だけの単なる専門家にしかならないし、そういう専門家では成果が出ないと思います》 (財界オンライン、同) 社会は複雑に絡み合っているのであり、高い視点で課題を解決できるような人間になりなさい。柳井氏は一貫して、同じことを繰り返し説いていることがわかる。 2011年にの全社員向けの訓示では「CHANGE OR DIE」(変われないなら死ぬしかない)と伝えた柳井氏。狭い視野で右往左往するのではなく、変わらなくてはならない。
小倉健一