<紫龍―愛工大名電・センバツまでの歩み>/下 19年ぶり頂点に挑む 冷静に「勝負どころ」見極め /愛知
こんなはずではなかった。東海大会に駒を進めた愛工大名電は初戦の2回戦で日大三島(静岡3位)に7―4、準決勝で藤枝明誠(静岡1位)に10―6で勝利。しかし、豊川(愛知2位)と再び相まみえた決勝で、劣勢に立たされた。 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち 名電投手陣は制球が定まらず、一回から3投手をつぎ込んだが6点を献上し、四回にも4安打を浴びて2失点。五回を終えて0―8とリードを許した。 「センバツが逃げていくぞ。諦めるな」。ナインに発破を掛けつつ、倉野光生監督は冷静だった。打線の調子からすれば、相手投手は後半に攻略できる。鍵はいかに失点しないか。そのためには、チームを勢い付けてきた豊川の3番打者モイセエフ・ニキータ(2年)のバットを封じることだ。 六回から登板したエースの大泉塁翔(るいが)(2年)が無失点で切り抜けた直後の攻撃。2死から2番・竹内優弥(2年)が打席に入った。直前に次打者の石見颯真(2年)から直球を狙うようアドバイスを受けていた竹内は、高めのボールを強振して左前打で出塁。後続もつながり、まずは2点を返した。 八回の守備。2死走者なしの場面で「勝負どころ」がやってきた。打席にはモイセエフ。指揮官は思い切った策を出す。三塁手の山口泰知(2年)を後ろに下げ、外野を4人で守らせた。「奇策」に球場がざわつく中、モイセエフが振り抜いた打球はふらふらと上がって遊飛に。「よし」。拳を握ったナインは直後の攻撃で2点、九回にも3点を加えて1点差に詰め寄った。 今季から中日ドラゴンズでプレーする中田翔選手の大阪桐蔭高時代にも、倉野監督は「外野4人シフト」を敷いたことがあった。それ以来となる戦術に「チームを乗せる選手は抑えないといけない。メンタルを揺さぶる狙いもあった」と語り、山口は「あの場面を抑えたことで、流れを引き寄せることができた」と振り返る。 昨秋の愛知県大会で優勝、東海大会で準優勝という堂々の成績を残した名電ナイン。倉野監督は旧チームと比べて「投手陣は安定し、打線もたくましいが、野手の守備は弱い」と総括した。冬場は体力と筋力の強化を図りながら、手で転がしたボールを腰を落として捕球するなど、守りの基礎を固める練習を繰り返してきた。 練習グラウンドの外野フェンスには、「全国の頂点に立つ練習を」と書かれたボードが掲げられている。ナインにとってセンバツに出ることだけが目標ではない。強豪ひしめくトーナメントを「昇り龍」のごとく勝ち上がり、2005年以来19年ぶりの頂を目指す。【黒詰拓也】(題字は倉野光生監督)