『金田一少年の事件簿』原作者・樹林伸が語る はじめ役の条件
名探偵・金田一耕助の孫である金田一一(はじめ)が怪事件に遭遇しながらも卓越した洞察力と推理力を武器に解決に導く『金田一少年の事件簿』。漫画フォーマットの本格ミステリーという新たなジャンルを開拓し、1992年の連載開始から今日までで単行本のシリーズ累計発行部数は1億部を超える。テレビドラマ、映画、アニメ、ゲーム、舞台、小説などメディアミックスの盛んな作品としても知られる本作のコンセプトを編み出したのが、天樹征丸名義で原作クレジットされている樹林伸だ。週刊少年マガジン編集者として連載の立ち上げから関わった樹林が制作秘話を語った。(Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
奇想天外なトリック 生み出す秘訣
「絶対ミステリーを漫画でやるべきだと思ってて、もうだいたいの構想はありました。『ルパン三世』が好きなので、名探偵の孫という設定までは決まっていたものの、金田一にするか明智にするかでギリギリまで迷って、ただやっぱ本格ミステリーだったら金田一かなと」 いまやシリーズ累計1億部を超えた『金田一少年の事件簿』は、樹林がストーリープロットとトリックや動機を考え、金成陽三郎がそれをシナリオに起こし、さとうふみやが漫画にするという体制で始まった。特にトリックは作品の核となる重要な部分。シリーズごとの区切りがあるとはいえ、連載を30年も続けるためのストックはどれほどあるのだろうか。 「トリックはその都度考えるのでストックなんかないです。けど、枯れたことはないですね。慣れというか、回路が開いてるんです。筋力のようなもので、やってると(アイデアが)バーッと出てくる。考えないでサボってるとリハビリが大変なのでずっと続けてることが大事かな」
金田一少年には、川に阻まれた崖に突如巨大な橋を出現させるなどの奇想天外で大掛かりなトリックが登場し、読者を唸らせてきた。最近ではスピンオフ作品やテレビ番組の検証企画などで、そんなトリックの困難さを面白がるコンテンツも登場している。 「楽しくていいじゃないですか(笑)。確かに初期のころとか大胆不敵なトリックですよ。一人でこれ無理だろうみたいなこともやってるんですよね。でも漫画ってそういうものじゃないですか。どういう形でもいいから楽しんでくれるなら問題ないです」 今年から始まった最新シリーズ『金田一少年の事件簿30th』では掲載誌を青年誌に移した。 「少年誌上だと犯行現場での凄惨な表現が、難しくなってきたんですよね。でも金田一なんで横溝正史の世界に近いことをやりたいじゃないですか。そのときに比べれば『イブニング』はコードが楽ですね。例えば犬神家の一族みたいなことをやってもまあそれはそれでOKって感じで。隔週っていうのもすごくやりやすい」