芥川賞候補5作品の美点難点、評価予想! 選考会は1月15日!!(レビュー)
12月12日、第172回芥川賞候補作が発表された。 ・安堂ホセ「DTOPIA(デートピア)」(文藝秋季号) ・鈴木結生「ゲーテはすべてを言った」(小説トリッパー秋季号) ・竹中優子「ダンス」(新潮11月号) ・永方佑樹「字滑り」(文學界10月号) ・乗代雄介「二十四五」(群像12月号) まず目を引くのは、『小説トリッパー』からのノミネートがあることだ。同誌から候補が出るのはこれで3作目、大変珍しい。 鈴木は今年第10回林芙美子文学賞佳作を受賞してデビュー、これが2作目となる。23歳という若さながら極度にビブリオマニアックな作風が特徴で、本作も初老ゲーテ研究者を主人公に、該博な知識で物語を編み込んでいる。カール・レーフラー事件をネタにしたサイドストーリー部分のほうが本筋より面白いのが難点。 乗代が、候補回数上限と言われる5度目のノミネートになることも注目点だろう。本作は、デビュー作「一七八より」以来何作か書き継がれてきた、主人公の名から「阿佐美景子サーガ」と呼ばれるシリーズの最新作である。景子がこだわる叔母との関係が本作だけではわからず、独立した一篇と見るのは難しい。選考委員たちが乗代に厳しめであることを考え合わせると受賞の目は薄そうだ。 永方は詩人で本作が初の中篇小説。言葉が崩壊する「字滑り」という疫病的現象をアイディアとした一篇だが、出落ち感が否めない。 安堂作は、恋愛リアリティ番組を枠組みに借り、ジェンダーや差別、戦争、ジェノサイド、資本主義など今日的問題を盛り込んで、「編集」という概念で包括した混沌的な作。混沌が投げっぱなしにも見え、評価が割れそうである。 竹中作は前々回本欄で取り上げた新潮新人賞受賞作である。「今日こそ三人まとめて往復ビンタをしてやろうと」で始まる冒頭からして作為が鼻につくが、手堅さと安定感は群を抜いている。新人離れしたその点が小さくまとまっていると嫌われる可能性はある。 ということでどの作も決め手に欠けるが、総合点で竹中優子と予想します。 [レビュアー]栗原裕一郎(文芸評論家) 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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