日本の自動車産業史上最大となる日産とホンダの経営統合、三菱自も加わって“三方よし”のシナジーを発揮できるのか
今春技術提携の覚書を交わした日産自動車とホンダだが、12月18日未明、日本経済新聞が持ち株会社方式による経営統合に向けて協議中という驚きのスクープを飛ばした。日産は経営危機の真っただ中、ホンダも四輪については決してうまくいっているとは言えない。日本の自動車産業史上最大級となるこの大型統合、果たしてうまく機能するのだろうか。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏がレポートする。(JBpress編集部) 【表】はじめから経営統合を目指していたのか…?日産とホンダが交わしていた技術提携のポイント ■ 技術提携で難局を乗り切りたかった両社だが… 営業利益の急減で危機的な状況に陥っていた日産自動車にとって生き残りのカギとなっていたホンダとの提携交渉。日本経済新聞は12月18日未明、持ち株会社方式による両社の経営統合の方向で調整中と報じた。日産が筆頭株主となっている三菱自動車まで合流すれば単純計算で年間販売800万台以上という巨大グループとなる。 今年3月に技術包括提携の覚書を締結した時、日産の内田誠社長が「今のままでは新興勢力の圧倒的な開発スピードと価格競争力に太刀打ちできない」と提携の理由を語っていた。しかし、これまでに発表したのは電気自動車、SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル=ソフトウェアによって機能充実を図るクルマ)に関する5つの領域での協業というざっくりとしたものだけ。 月単位で進化していく中国の新興メーカーやテスラ、またAI(人工知能)や情報通信プラットフォーマーに対抗するのであれば、その程度の結論は1カ月で出すべきもの。異常なほどのもたつきは両社の主導権争いが原因ではなく、巨大資本同士の経営統合に話が発展していたからだったのだ。 もっとも当初から経営統合を目指していたとは限らない。日産の後ろ盾である経済産業省はそれを志向していると指摘されてきたが、両社ともに経営の独立性を保ちたいというメンツはある。 加えて日産には昨年持ち株比率を15%台に下げたとはいえ、依然として大株主にフランスのルノーが名を連ねており、取締役にもルノー出身者がいる。ホンダと経営統合するのであれば、その関係を清算するなりルノーも合流するなりといった判断もしなければならない。 通常であればそんな面倒を避けて技術提携で難局を切り抜けたかったところだろうが、事態がそれを超えた。日産は第1四半期、第2四半期と連続で営業キャッシュフローが2000億円超のマイナスとなり、改善の兆しが見えない。その混乱を突いて旧村上ファンド系の投資グループ、香港の投資グループと、いわゆる“モノ言う株主”が株の大量保有に動いた。 さらに日経新聞がスクープを飛ばした18日正午前には、かつて社長になれずに日産を去った関潤氏が自動車部門のトップを務める台湾の巨大電子メーカー、鴻海精密工業が日産株の取得に動いていたとの報道が飛び交った。特に資金量の豊富さと事業取得の意欲の両方を持った鴻海には敵対的TOBを行う動機もあり、日産にはホンダとの経営統合を模索する以外の有効なオプションが失われた格好だった。 ホンダはホンダで中国事業の大幅マイナスが止まらず、今年度上半期の四輪部門の営業利益は売上高6兆9875億円に対してわずか2580億円と低調。四輪より売上額がはるかに小さい二輪に利益で抜かれるという苦境にある。 本来ならば日産との経営統合という火中の栗を拾うような判断はしたくなかったところだろうが、ホンダには潤沢なキャッシュがある。日産の技術を鴻海に取られるよりはマシであるという判断、そしておそらく経済産業省からの要請もあっての、急転直下の決断となったのかもしれない。