日本の自動車産業史上最大となる日産とホンダの経営統合、三菱自も加わって“三方よし”のシナジーを発揮できるのか
■ 意外にも両社の強みや弱みは相互補完できる? だが、果たしてこの経営統合で両社はうまくシナジーを発揮できるのだろうか。統合後、実務レベルでうまく融和が図れるかどうかということを別にすれば、両社の強み、弱みは意外に相互補完的で、相性は完璧ではないが悪くはない。 アウトラインを見てみよう。まず日産だが、先行分野の研究への投資が活発で、世界の大学、研究機関との連携も巧みであるのが特徴。2018年に放逐されたカルロス・ゴーン元会長の置き土産のひとつだが、外部からの招聘を含めた人材の多様化が進んでいるのも強みだ。 その半面、商品開発はその先行分野にリソースを食われる形で手薄となっている。また生産改革のつまずきでコストが高いのも難点で、常に利益が圧迫されている、言い換えれば理想のクルマを思うように作れないという状況だ。 一方のホンダは市販車に搭載する現有技術の水準やコスト競争力自体は世界の中でもかなり良いポジションにいる。四輪が儲かっていないのは絶対コストのせいではなく優れた製品を高く売れないブランディング戦略の稚拙さの影響が大で、ポテンシャルは大きい。 手薄なのはイメージとは裏腹に先端分野だ。2010年代にAI、エネルギー創出など先端技術分野の研究を「必要なものは機能ごと買えばいい」というトップの判断でバッサリ切ってしまった影響を今なお引きずっており、技術の大転換のトレンドをキャッチアップするのに四苦八苦している。 特に電動化についてはトヨタに次ぐハイブリッドカーメーカーでありながら、バッテリーEVなど次の世代のクルマにそれを全くつなげられていない。
■ 問題は経営統合をうまく機能させる「組織作り」ができるかどうか このように両社の強み、弱みは補完的で完全とは言わないまでもプラットフォーム、基本システムの共用などを大胆に進めれば両社のカラーを出しながら今必要な商品の競争力と将来の自動車技術のリーダーシップを取るための開発を両立させることも不可能ではないだろう。 特に両ブランドの価値を並び立たせるカギとなるクルマの作り分けについては基本モジュールをルノー、日産、三菱自の3社が共有しながらそれぞれ独自性を出すという日産の経験を生かせるだろう。 問題は地力はまだまだある両社の経営統合をうまく機能させる組織作りができるかどうかだ。冒頭で述べたように経営統合といっても合併ではない。持ち株会社を設立し、その下で日産、ホンダ、将来的には三菱自も合流し、それぞれ独立した企業体として存続するという形を取ることになる。 その持ち株会社の権力構造がどうなるかは興味深い。単にホンダ出身者を会長、日産出身者を社長、あるいはその逆といった内部で固めるのは得策ではないだろう。日産とホンダが悪い部分で似ているのは、社内の権力抗争が常態化していることだ。 日産はルノー傘下入りする前は“銀座通産省”とあだ名されたほどの階層主義だったが、そのDNAは四半世紀経った今も受け継がれてしまっている。急激な業績悪化の気配を経営陣が察知するのが遅れたのも、現場と経営陣の意思疎通が希薄だったことや、それぞれの部署が責任回避に動いて正しい状況判断ができなかったことが影響したことは否めない。 ホンダのほうは派閥抗争というより社内のキーパーソン同士の足の引っ張り合いが起こるなど、下からは嫌われても上役の覚えがめでたければそれでよしという体質がある。売上高20兆円を誇る企業としては少々信じられないところもある。