「減税したら税収が増えるというのは幻想」 過去にアメリカも大失敗…「現在よりもインフレで苦しむ人が出るリスクも」
「立ちどころに財政破綻する」
約7兆円の税収減のうち約4兆円は地方税ということで地方自治体への影響も多大である。実際、宮城県の村井嘉浩知事はすでに、 「立ちどころに財政破綻するだろうと思う」 と懸念を示している。 「短期的に見ると景気にプラスになったとしても、長期的に見ると地方を中心に財源に困ることになり得ます」(前出・小幡氏)
「インフレで苦しむ人がたくさん出てきてしまうリスクも」
元大蔵官僚で法政大学教授の小黒一正氏が言う。 「物価が2倍になれば所得が2倍になっても、実質的な所得が増えたことになりませんが、直面する所得税の税率が高まり、増税になることがあります。こうした問題の解決のため、高度成長期に池田勇人首相が『物価調整減税』を行いましたが、そのような形での減税ならば一定の合理性があります。もっとも、インフレ下での減税政策は経済全体の総需要を刺激し、インフレを加速させるリスクもあります。インフレが賃金に追い付かない場合、実質的な手取りが減少する可能性もあることには留意が必要でしょう」 さらにこう警鐘を鳴らす。 「財政との関係で、今後、日銀がインフレを制御できなくなるシナリオも全くないとは言い切れない状況です。現在はそのような兆候はないですが、そうなれば、国民の中には現在よりもインフレで苦しむ人がたくさん出てきてしまうリスクもあり、別途、財政健全化の道筋もしっかり議論すべきでしょう」(同) 目先の「手取り増」に踊らされていると、将来痛い目に遭いかねないのだ。 前編【「103万円の壁」引き上げで手取りはどれだけ増える? 所得税20%の人は「無条件で15万円アップ」】では、日本の基礎控除がこれまで引き上げられてこなかった理由や、実際に103万円の壁が引き上げられることで、具体的にどの程度手取りが増えるのかについて解説している。 「週刊新潮」2024年11月28日号 掲載
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